ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第18回

僕の修業期間はあっけなく幕を閉じる。

銀座店の準備は大忙しだった。
細かい事を考えている暇なんて
ないくらいに大忙しだ。
飲食店の立ち上げを経験した事の
ある人なら
(そうそういないと思うけど)
解ると思うが、
期待と不安と時間のなさから来る焦りとで、
どこか日常ではないような高揚感に包まれてくる。

・・・筈だった。
僕自身もそうした高揚感・・・
というより解りやすく言うなら

『ラリってる』

様な状況に自己を置きたかった。

実際はそうはなれなかったのだ。

六本木店は出口の見えない模索が
続いていた。
社長を始め、会社の上役は日に日に
重い空気を重ねていき、それを隠そうと
しなかった。

その重い空気は今から始まる!という
準備中の銀座店にも押し寄せてきた。
社長を始め会社の首脳陣はますます
現場の自分たちよりも後から任命された
居酒屋から来た『統括責任者』に重きを
置くようになっていった。

僕はその事に拒絶に近い気持ちを持ち始めて
いたのだが、ある時緊張の糸が簡単に
切れてしまう。

どれだけ会社の上層部があれこれ
言ったって、実際に店を動かすのは
俺たち現場の人間だ!
なんて思っていたのだが、
そんな気持ちも萎える事態になる。
会社の雰囲気や失踪したNさんに
ショックを受けたのか、
一番僕に厳しくしてくれて
一番僕の面倒を見てくれたW店長が
無気力状態になったのだ。

出勤時間には来ない。
ランチタイムが終わったら夕方まで
控室で寝ている。
会社の上役が来たときだけシャキシャキと
起きてくる。
はっきり言って店長としての
役割は果たしていなかった。

「こうなったらどうにか現場を俺が
切り盛りしなきゃいけない!」

そう思い込んだ僕は次第に周りの
若いスタッフに厳しく当たるように
なっていった。
まるで19歳~24歳まで過ごした
引越屋での様に、鉄拳制裁も
加えるようになった。

当然、現場は荒れた。
ある日、若いスタッフを殴り、
そのスタッフを怒鳴りつけた時にその
彼がビリビリに破けた自分のシャツを
拾いながら叫んだ。(僕が彼を引きずり
倒したから破れたのだが・・・)

「こんなヤクザがいるなんて聞いてねぇよ!
お前、訴えるからな!
この後社長にもクレーム入れてやる!」

「おう!勝手に入れろや!
傷害罪でもなんでもしてこいや!
お前、なんぼでもどつきに行ったるぞ!」

当然店内中に声は響き、
お客様にもその怒鳴りあいは聞こえていた。

聞こえていたどころか、
泣きながら店を出ていく彼の臀部を、
まるで蝶野正洋よろしく
ケンカキックの要領で
蹴り飛ばして放り出したのを
お客様も見ていた。

後でやってきた店長に興奮状態の僕は
自分からそのスタッフを殴りつけて
返した事を怒鳴るようにまくし立てて
報告をした。

恐らく怒ってくるだろう、
と興奮しながらも思っていた。
その時は処罰は受けるし、
法的裁きもうけるつもりだ、
しかしこの店の状況に
ふぬけた奴はいらない!と
自分の感情をぶちまけるつもりだった。

しかし店長の反応は予想外だった。

いきなり僕から視線を地面へと落とし、
大げさにため息をついて椅子に
へたり込んでしまった。

怒鳴って殴ってくる様な
激情をぶつけてくるなら、
僕も自分のした事を
冷静に反省したかも知れない。

「・・・もういい・・・。
一人にしてくれ・・・」

店長はそう言って僕を見ないままで
手の甲をひらひらと追い払うように
僕に向けた。

キッチンに戻ると、アルバイト達が
不安そうに僕をちらと見たのち、
視線を自分の手元に戻して各々の
仕事に戻って行った。

怒りの矛先もはけ口も反省する
きっかけも失った僕は物に当たり
散らすしかすべがなかった。

そしてその翌月に僕はあっさりと
辞表を提出して簡単に辞めてしまった。

後悔はあった。
自分が何も出来ず、
責任も果たさず、
確たる正当性もなく、
今まで周りに言ってきた熱意の籠った
自分の言葉さえなかったものにして、
簡単に辞めていく
自分に後ろめたさもあった。

言いだした勢いを自分で引っ込められ
なくなっていた事も確かだ。

だがそれ以上に店長に失望した
気持ちが僕の決心を揺るがない
物にした。

今、あの東京に少しでも夢を見ようとした
26歳の頃を振り返ると、
自分はどうしようもないバカだと思う。
あまりにも幼く、
あまりにも人に揉まれていない。

ここで自分の変わらない悪い癖が
一つ見えてくる。

僕は他人に『期待しすぎる』のだ。

例えば、この僕が失望した店長。
僕は「この人についていく!」
とまで言っていた。

「この人なら、間違いなく
僕を導いてくれるはずだ!」
という思い込み。

それは僕が勝手に作りあげた

『憧れの店長像』

であって、Wさんの本質とは関係ない。

そして店長として複雑な状況の中、
どれほど苦しい思いをしたか、
僕は全く解っていない。

勝手に期待して、
勝手に裏切られた
気持ちになっていただけだ。

Wさんからしたら迷惑な話だ。

本当に申し訳なく思う。

だから、なんとか自分の名前が
K県下に轟くくらいに有名に
なってやろうと思った。
そして、ラーメン屋として成長した
姿を見せる事が唯一の恩返しでは
ないかと考えていた。

地元で12年間店をしている間、
Wさんの事は忘れた事がない。

多少は僕の店もメディアに
乗る事が出来た。

メディアに露出する度に
「Wさん、見てくれてるかな・・・」
などと思っていた。

連絡はあれから一度も取っていない。
今、何をしているかも知らない。
そして自分の仕事を見てもらう前に、
自己破産して金沢に帰ってきた。

もう会う事はないのかも知れない・・・。

でも次会う日を信じて、自分が胸を
張って挨拶できる様になっていたい・・・。

自己破産してまず社会に迷惑をかけている。
期待してくれていた人の気持ちも裏切ってる。

僕と僕の両親は今はまだゴールの見えない
暗いトンネルの中を走っている。

それでも前へ前へと進んでいる。

いつか再起するために・・・。

修業時代のシリーズは今回で最終回です。
この後少し細かい話を挟んで、いよいよ
自己破産へと現実的に繋がる
海辺の町での話が始まります。

長い話になると思いますが、
読んでいただけたら嬉しく思います。

どうもありがとうございました。