ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第29回

突然の知らせだった。
もう辞めようと決心していた事を
忘れてしまうほどだった。

Aさんはコツコツと物件を探す
努力をしていたのだろうか?

僕はAさんの車で現地へと向かった。
その物件はとても意外な場所にあった。
地元駅から歩いて5分ほど。
商店街からは離れるが、
バス通りにも面していて
とても目立つ場所だった。

「こんなとこ、ありましたっけ?」

「いや、俺もさ、
全く気にしてなかったんだよ。
まさかこんなとこにあるなんて」

僕たちはさっそく物件に張り出してある
不動産屋の電話番号に電話をしてみた。

話によると僕とAさんが訪れた
二日前から貸し出しが始まったらしかった。
僕たちはラッキーだったのだ。

つまり、Aさんは全く物件を探してなかった。
たまたま通りかかったら見つけたのだ。

しかし僕にとってはもうどうでも良かった。
とにかく店さえあれば、
後は自分の力だ。成功さえすれば、
Aさんと僕がどれだけ関係がこじれても、
納得をせざるを得ないだろう。
成功したその後に僕たちが
どうなるかは今は考える要はない、
そう思っていた。

ここでも解ると思う。
僕は自分の仕事にビジョンなど
持っていないってことを。

僕は『辞める』と決めたそのすぐ数日後に、
「店をやれるならそれに越した事はない」
と自分の決心よりも状況に
流される道を選ぶ。

みなさん、よく覚えておいてほしい。
僕のこうした計画性のなさ。
信念のなさ。
状況に流される怠惰さ。
感情に抗えない弱さ。

こうした僕が持つマイナスな性質が
自己破産を引き寄せたのだ。

Aさんは物件が決まった事を
Aさんにとって『親友』と呼ぶ
Bさんに報告をする。
するとBさんは「面白そうじゃん」と
すぐに地元までやってきた。

このBさんについて軽く説明をしておく。
このらーめん屋時代の後半は
Aさんに変わってこのBさんが
物語の焦点になってくる。
このBさんの人となりを少しだけ
記しておく。
今後の物語の参考にしてほしい。

このBさんとは僕も
この時点で顔見知りだった。
BさんとはAさんの居酒屋で
『客同士』という立場で知り合う。

正直なところ、僕はBさんが苦手だった。

出来たら僕が飲みに行く日は
会いたくない人だった。

Bさんは大都市で音楽関係の
会社を経営していた。
とにかく体が大きくて丸坊主
迫力のある人だった。
かなり成功している様子で、
いつも大きな外国産の高級車で
居酒屋に乗りつけ、
自身の会社のスタッフ達を引き連れていた。

常に話題の中心で周りも
一生懸命に気を使って話を
盛り上げたり笑ったりしていた。
その雰囲気が唯我独尊で
ワンマン社長に見えた事も
僕の苦手意識を増幅させた。
たまに世間話をしても絶対自分の
持論を譲らないのも気に入らなかった。
向こうも僕の事は苦手だったと思う。
後に「お前は本当にめんどくさかった」
と言っていたから、
お互いに苦手だったのだろう。

そして一番気になったのが、
『親友』の筈のAさんが、
ぺこぺことご機嫌をとる様に
気を使っていた事だった。

いくらこの時点で僕とAさんとの
関係がギクシャクとし始めていたとはいえ、
自分が給料をもらっている人が
他所の会社、それも『親友』とよんでいる
人にぺこぺことしている姿を見るのは
気持ちの良い物ではなかった。

それならまだいい。

AさんはBさんの会社の若いスタッフにも
気を使って話題をふったり、
自分からへりくだって
笑いを取ったりしていた。
だからBさんの会社のスタッフは
どこかAさんに対して舐めた
態度を取っている様に見えた。
それはAさんがBさんにぺこぺこ
している姿を見る以上に
気に入らなかった。

それはもしかしたら僕が気にし過ぎて、
過剰に反応していただけかも知れない。
僕の中のBさんへの苦手意識が
そういう風な見え方にしてしまって
いたのかも知れない。

しかし僕がそういう感情を持ちながら
Bさんやその会社のスタッフと
接していた事を覚えておいて欲しい。

借りる予定の物件をBさんが見たのち、
僕たち三人は地元の
ファミリーレストランにて
ミーティングを開く事になった。

Aさんが見つけた物件は
三階建ての空きビルだった。
その一階をラーメン屋の為に
借りたいと考えていた。
そのビルは不動産屋の話によると、
オーナーの方がその時点で
10年ほど前に建てたきり、
何に使うともなく倉庫の
様にしていたビルだった。

使わないなら貸してしまおう、
ということだった。

Aさんは虚栄心の強い人だ。
その空き物件をBさんに見せる事で、
すでに成功して多額のお金を
手に入れているBさんに対して
「俺もすげぇだろ?」
といった風な格好をつけた
態度を取りたかった。
テーブルに腰を下ろして、
「Bさ、どうよ、あの物件?」
と聞いた時のAさんの顔は
とても自信に溢れて得意に
なっている表情に見えた。

少し考えている風のBさんは
ゆっくりと口を開いた。

「あのビルさ、三階まで借りちゃいなよ」

「え!?なんで!?」
きっと「すげぇじゃん!絶対成功するよ!」
等といった言葉を期待していたはずの
Aさんの表情は急に困惑を浮かべ始めた。
Bさんは続ける。

「すげぇいい物件じゃん。
階段も一直線だし。
二階三階を居酒屋にしちゃいなよ」

急な提案にAさんは明らかにビビっていた。

「そんなの無理だよ!
金もないし!居酒屋は今のままでいいよ!」

「男はさ、勝負賭ける時があるんだよ。
このチャンスをみすみす逃すの?」

「勝負賭けてるよ!
だからラーメン屋するんじゃん!」

「あんな良い物件、もう出てこないよ?
俺なら勝負するなぁ。
ラーメン屋一軒やったところでどうにも
ならないよ。
せっかく居酒屋も繁盛してるんだし、
男ならやりなよ」

Aさんは『男なら』とかそうした言葉に弱い。
売り言葉に買い言葉ってのはこの事だろう。

「解ったよ!やるよ!やってやるよ!」

Aさんはあっさりとなんの根拠もなく決断した。

僕はというとそのやり取りを
「・・・めんどくさくなりそうだなぁ・・・」
と他人事の様に考えていた。
その日は女の子と食事にいく
約束をしていたのだ。
はっきり言って、
ラーメン屋以外の事は
どうでも良かった。

窓の外を見てため息が着きたい様な
気持ちの僕にBさんがいきなり話を振った。

「大祐、お前さ、お前のやりたい
ラーメン屋をAに出してもらうんだろ?
なんでそんな興味なさそうな顔してんだよ」

僕は自分の上司でもないBさんに
偉そうに言われるのは気に入らなかったが、
こんな話の内容は僕がどうこういう
問題ではない。

「あ、いえ、いいと思います」

等と適当な返事をしていた。

次回に続きます。