読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第43回

僕の中で期間限定らーめんを
作る意義とは、決して
「期間限定だから食べにきてよ」
という様な打算ではなかった。
『期間限定』の風変わりならーめんを
出したからといっていきなりその
らーめんが評判に評判を呼び、
すぐに売り上げに直結するなんて
甘い考えは持っていなかった。

ではなぜ『期間限定らーめん』を
作り続ける事にこだわっていたか?

それは普段から来てくれている
常連の方への自分の
『姿勢』
の提示に他ならなかった。
もっと解りやすく言うと、
「これからももっと
腕を上げていきます」
という決意表明だったのだ。

お客様という存在は
本当に不思議なもので、
どれだけ期間限定で
新しいらーめんを作っても
定番のらーめんから絶対に
浮気をしない人もいれば、
シーズンごとのらーめんを
楽しみにしてくれてて、
期間限定の最終日には
一日に2回も食べに来てくれる
猛者もいた。

そういう全ての人に、
これからもチャレンジし続けます!
という意気込みと、
「お陰さまでこうしてチャレンジ
させていただいてます!」
という感謝の気持ちからだったのだ。

期間限定の評判が上がったとして、
僕の店の定番のらーめんを
食べた事のない人が来る事は
絶対にない。

いつも来てくださっている方が、
「なんだ?面白そうじゃねぇか」
と試して下さるのだ。
そして気に入って下さった方が、
また僕の店に来た事のある
友人知人に「美味いよ」と言って
くれて、また繋がっていく。
直接客数に反映されるのは、
商品一つではなく、
誠実に続ける意思の結果なのだ。

簡単に結果など出ない。
辛抱強く辛抱強く
続けることが大事なのだ。

ただ、当時は僕の作る豚骨スープも
まだまだ味にバラつきがあった。
僕自身がまだまだだったのだ。
だからこそ、僕の成長や変遷を
ずっと長く見て来て下さった
常連の方には「ありがとう」では
伝えきれない思いがある。

僕のらーめん屋は、
たくさんの常連の皆様と共に
歩んできたのだ。

その成長途中の僕が作る期間限定を、
Bさんはとにかく嫌った。
理由はこうだった。
「らーめん屋は、
あれこれらーめんを出さず、
一種類を作るべきだ」
という考えからだった。
「一杯を追求し続けるのがらーめん屋」
とも言った。

なるほど、言葉としては
格好もいいし響きもいい。

しかし軸となるらーめんのスープは
たったひとつの豚骨スープだ。
豚骨を作りながら、
清湯スープを並行して作っている
訳ではない。
追求しているのは豚骨のみなのだ。
つまり一つのスープを
作り続けている。
期間限定を作ったからと言って、
そこに矛盾は生まれない。

僕は期間限定らーめんを作り続ける
事を辞めなかった。
楽しみにしてくれている方が
たくさんいたし、
僕自身もっと挑みたい事が
たくさんあった。

期間限定らーめんを続けるか廃止
するかの話し合いは数多く行われた。

しかし最後は「もう辞めろ!」と
トップダウンで決定された。

その理由はこうだった。

「お前の期間限定は不味い。
誰も喜んでいない。
お客様に失礼だ。
そもそも、期間限定なんて、
お前の自己満足だ。
お前は昔から自己満足の
世界で生きている。
だれもお前に興味なんか
ないのに、自分はスターだ
みたいな勘違いの世界に
生きている。
期間限定を作る作らないじゃなくて、
お前の生き方を変えろ!」

Bさんの怒りや説教は
往々にして人格否定に及んだ。

付き合い始めの頃は
お互いに手探りで相手の事を
知ろうとするから遠慮もあった。

付き合いが長くなるにつれ、
何をしても全て
『人格否定』へと結びついた。

Bさんは相手を完全に否定する事で、
否定された相手が純粋に
「そうか、自分は間違っていたのか。
そうすればいいのか、ありがとう」
と変わると考えていた。

人格を否定されたのは
僕だけではなかった。

入社してきた社員全員といっても
間違いではなかっただろう。

個人の否定は時に極端な方向へと
向かう事があった。

「お前は最低だな。
南家の人間は全員そうなのか」
ラグビー部は全員お前みたいに
歪んだ人間なのか」
「京都の人間は全員お前みたいな
歪んだ性格なのか」

ここまで否定されると、
今までの人生全て否定された
気持ちになってくる。

ここまでの話を聞いて疑問を
抱く人がきっといると思う。

「そんな会社辞めればいいじゃん」
「そんなとこ逃げ出せばいいじゃん」
「そんな意見、無視すればいいじゃん」

みんながそう思うと思う。

しかし僕だけではなく
Bさんに関わった人はそれが
誰も出来なかった。

なぜか?

Bさんは最初から
「こいつにこう発言させる」
と喋らせる内容を決めて
「こう来たらこう言う」
と全て考えて話してくる。
言葉尻を取られ、
明らかに納得の出来ない言説を
あたかも納得したように導く
すごい話の持って行き方を
身に着けていた。

これは本人が言っていた事なのだが、
とあるアンダーグラウンドな世界では、
『潰し』
と呼ばれる話術のテクニックらしかった。

そんなアンダーグラウンドな世界が
あるなんて現実の話は僕には解らない。
しかしBさんは時々その世界での
経験を誇らしく語っていた。

何から何まで、
僕たちよりもBさんは
上手だった。

人格を否定されると
人間はどうなるのか?

まず、反発する。
その後、自分の過失だと
猛烈に思いこむ。
最後は自分を否定して
自分の事をクズだと思い始める。

クズとして働き始めると、
急に皆誰もが瞳の色を失い始めた。
僕よりもまずは周りの仲間たちが
目の色を失い始めた。

自分はクズだから、
自分は判断するべきではないと
思いこみ始める。

するとどう仕事を判断するか?

Bさんに怒られないか?どうか?
というレベルで仕事をするようになる。

その頃には完全に思考は
淀んで停止している。

そして体力的にはギリギリの毎日の中、
次から次へと沸いて来るBさんからの
注文をこなしていくうちに、
感情のない泥人形の様な作業員が
出来あがるのだ。

期間限定らーめんは終了した。

だが僕は一人でらーめん屋を
切り盛りしていたから、
まだ居酒屋のメンバーに
比べて気楽だった。

当時居酒屋は大繁盛していて、
らーめん屋はそこそこの数字だった。
だからBさんも居酒屋がメインと
考えていた。
だかららーめん屋の僕よりも
居酒屋のメンバーの方が
付き合う時間は長かったのだ。

僕はBさんにガミガミ言われても、
この時点では居酒屋のメンバーよりも
気楽だったのだ。

「言わせとけ、やってるのは俺や」

と開き直る余裕がまだあったのだ。

だからこの当時、居酒屋のメンバー、
つまりここまでに何度も名前が
でているHさんやJさんがどんな
精神状態だったのか、
僕は全く解っていなかった。

そんなある日、Bさんがフラッと
Aさんを伴ってらーめん屋に来た。
その頃AさんはBさん舎弟の様な
雰囲気になっていた。

「大祐、お前物件探してこいよ」

僕は突然何を言われているのか
解らず、ただキョトンとするだけだった。

以下、次回に続く。