ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第25回

らーめんという食べ物は
本当に不思議だと思う。

日本中でこれほどまでに
認知されていて、
深く親しまれている食事は
ないと思う。

日本人が全員らーめん評論家に
なれるんじゃないかというくらいに
みんなが好みのらーめんに一家言があり、
ひいきのラーメン屋がある。

その一方で、
『たかがラーメン屋じゃねぇか』
というどこか飲食業界の中で
『下のランク』
に見られる事もしばしばある。

実際に自分がラーメン屋を
開業した27歳の頃、
「ラーメン屋はぼろい商売でいいねぇ」
「らーめんはただ麺を茹でて器に入れれば
いいから楽だよな」
と、同世代の他の飲食業で働く人に
言われた経験がある。

このブログを続けて読んでくれてる
方なら想像に難くないと思うのだが、
血の気の多かった20代の僕はそういう
発言を絶対に許さなかったから、
大いに揉めた。

しかしラーメンほど丼一杯で
人々を熱狂させる求心力を持っている
食べ物は他にはないと僕は思っている。

生き方、性格、感覚、感性、努力、
美学、美意識、経験、哲学、愛・・・
挙げだしたらきりがないような
人間性を現すそれらの言葉を丼一つで
表現する。

そして美味いか不味いかで全てが判断される。

美味ければ称賛され、不味ければ人間性まで
疑われる様な食事。

それがらーめんなのだ。

僕がなぜらーめんを好きになって
これで生きていこう!と決めたか、
正直なところ自分でもよく解っていない。

でも丼一つで勝負して
逃げも隠れも出来ない。
らーめんのそうした存在意義に
痺れたのは確かだ。

「俺、ラーメン屋をやろうと
思うんだよね」

簡単に言ったAさんの事を、
その言葉を聞いた僕がなぜ
疑わなかったか?

Aさんが言ったように
「らーめんなめんな!」
となぜ思わなかったか?

それは自分の経験のなさからくる
自信のなさと、Aさんの事を
尊敬していたからに他ならない。

修業先を辞めて仕事も探さずに
部屋でゴロゴロしているだけの僕は、
もう考える事すら放棄していた。
仕事を探さなきゃ・・・・。
ラーメン屋で修業をし直すか・・・。
または違う飲食店を経験してみるか・・・。
と求人情報は開いてみるのだが、
結局は「明日でいいか・・・」と
情報誌を閉じて酒を飲んでいた。
今では信じられないが、
一日に12時間も寝たりしていた。
無気力という言葉がぴったりだった。

何日そうしていたのかも
もう思い出せないのだが、
そうしているうちにAさんから
電話がかかってきた。

「あ、大祐?
最近顔見せないけど何してんの?
少し話したいからまた店にきてよ」

「あー、まぁ、解りました。
近々顔出します」

僕はそれを単純な営業電話だと
思っていたのだが、暇なのだから
断る理由がなかった。

明け方に近い時間にAさんの居酒屋へ
行くと、その日に限ってお客様が
少なかった。

「あ、大祐、良かったらさ、
少し話そうよ」

と僕は二階の座敷に通されて
Aさんと二人きりになった。
そこでAさんがいきなり切り出した。

「大祐、この前ラーメン屋をやる
話をしたじゃん?あれ、
大祐も一緒にやらねぇ?」

「え!?」

急な事で驚いたが、単純な僕は
自分が尊敬している人に誘われた
だけで嬉しかった。

「俺はさ、大祐の人間性が好きなんだよ。
誰でも良いって訳じゃないんだ。
俺は大祐とやってみたいんだ」

ここでこのブログを続けて読んで
くださっている方に思い出して
ほしいのは、第18回の時に書いた、
僕の『他人に期待をし過ぎる』性格だ。

『きっとこの人は凄い人に違いない!』

Aさんの事をそう思っている僕は、
こんな熱量の高い自分の評価を
もらって嬉しくないわけがなかった。
「少し考えさせてください」
と自分の部屋に戻ったはいいが、
考える事なんて出来なかった。

僕は考えていたのではなく、
自分の心の中で揺れる感情に
どう言い訳や理由を与えるか
という事でモヤモヤと
していただけだった。

僕の理性は僕にこう語りかける。
「俺はまだ未熟で経験不足だ。
もっとしっかりと修業を積んだ方がいい」
そして僕の感情は僕の理性にこう反論する。
「チャンスやん。今すぐ自分の腕を
試せるやん。失敗しても俺の責任ちゃうやん。
やったもん勝ちやん。それも経験やん」

そして、僕抜きで新しいらーめんを
作って成功させるAさんを想像してみた。

僕はその成功している
Aさんを妄想するだけで、
激しい嫉妬に駆られた。

僕も作りたい!
今すぐ作りたい!
作りたい作りたい!

でも・・・やっぱり・・・

答えを出せないまままた日は流れた。
何の連絡もしてこない僕にAさんも
痺れを切らしたのだろう。

「大祐、お前何してんの?
あの話、どうすんの?」

やらなくて後悔するなら、
やってみて後悔した方がマシだ。

「今から店に行きます!」

僕はその足で居酒屋へと向かった。
そしてAさんと二人きりになり、
「やります!やらせてください!」
と自分から頼んだ。

この時にAさんが言った
言葉が忘れられない。

「そうかぁ、大祐、やってくれるかぁ。
俺も人の人生を背負う男になったかぁ」

そう言って腕を組んで
満足そうに高笑いをした。

Aさんはこれから一緒にやる仲間に
なる僕の事ではなく、自分自身について
語って満足そうだった。

あれ?一緒に頑張ろう!とか
そういう熱い言葉じゃないの?と
違和感を感じたのだが、
自分から『やらせてください!』と
お願いをしたのだ。
後は自分次第なのだ。
どんなステージを与えられようが、
戦場に立つのは自分自身なのだ。
やるしかない!
やるしかない!
急に高揚してくる自分の感情に
酔い始めた僕は、ここのところ
感じ始めていたAさんに対する
違和感に完全に蓋をしていた。

修業先を辞めて一ヶ月以上も
ゴロゴロとしていた僕の日常は、
ここからジェットコースターの
様にめまぐるしく動き出す。

26歳の年末だった。

以下、次回に続く。