金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第173回

ここに一冊の小説がある。

編集『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘

路面電車の走るどこにもないのにどこか懐かしさを感じる小さな町。

そこに越してきた青年が出会う人々との心や生活の交流から紡がれる暖かい物語。

青年は銀幕の中の女優に恋をする。

その女優と時を超えて出会い、導かれるように『スープ』作りに熱中していく・・・。

恋した女優、青年を囲む少しイノセンスな人々、そして青年が作り続けるスープ。

それらの象徴するものとは?

とても心温まる小説なので、興味のある方は是非読んでみてください。

この小説の中にこんな文章がある。

「美味しいものを作る人は世の中にたくさんいるし、それはそれはみんな一所懸命に作ってるはずなんだけど、一所懸命だけじゃまだ足りないの」

「一所懸命と思ってる人は、たいてい自分のために懸命なだけで、そうじゃなくて、恋人のためにつくるようにつくればいいの。わたしはそうするの。そうすると一所懸命の他にもうひとつ大切なものが加わるでしょう?」

昔、湘南で暮らしていた時に若いコックに悩みを相談された事を思い出した。

「みんな認めてくれないんですよ。俺が一所懸命作って、これなら間違いない!って思っても、「しょっからい」って捨てられたりするんすよ。俺、辞めたくなりますよ」

「それな、しょっからい、言うてくれる人に感謝した方がええで。独立したら誰も言ってくれへんねんで?しょっからい、思われたらさっとお客様おらへんようになるねんで?だからな、感謝して味見しなおしたらええやん。例えば、彼女にカレーライス作ってあげようって思ったら、ジャガイモの皮むくだけでも楽しいやろ?その気持ちを24時間365日持ち続けるねん。そしたら何もかも上手くいくわ」

これは実際に僕が若いコックに言った言葉なので、ここに自分で書いてしまうのは少し恥ずかしいのだが、まさにその通りだと思う。

この時の自分を褒めてあげたい(笑)

金澤流麺らーめん南は開店して三カ月が過ぎた。

お世辞にも流行っているとは言い難い。

むしろ、暇な店だ。

27歳で初めて店を持った時も、31歳で移転して味をガラリと変えてお客様が半分以下に減った時も、必死だった。

今40歳になって金沢でまた一から、というよりはマイナスからのスタートを切って、また似たような『必死な』思いと経験をしてるわ、と思うと時々おかしくなってきて笑いそうになる。

「俺、成長せぇへんなぁ」って。

そんな時、この小説を読みました。

かつて自分が人の悩みに語って聞かせた話と全く同じセリフを読んで、自分で気付きなおしました。

そう、大切な人のためにつくる気持ちを毎日持つこと。

愛の感情でらーめんを作ること。

なんどすごろくの振り出しに戻ったって、あきらめずに何度でも立ち上がればいいし、何度でもやり直せばいい。

だから今日のお客様のために精一杯愛情を込めて作ろう。

答えはいつも簡単で単純。

いつも目の前にある。

そんな事を気付かせてくれた小説でした。

次回も同じ小説の引用から話を進めたいと思います。