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金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第58回

自己破産を決意して石川県への
引越を決めた僕に、
ここまでも散々力になってくれて
いた剛がとある話を持ちかけてきた。

「南が本気で人生をやり直す気持ちが
あるなら、俺が南に投資をしてもいい。」

石川県に引っ越した後どうするのか?
というのは大切なテーマだった。
だが僕はここまでの藤沢での生活が
大変過ぎた反動からか、
先の事など「考えたくもない」
気持ちだったのだ。

当然らーめん屋をやりたい。
今度こそ心ゆくままに
自分の全てを丼に表現したい。
しかし自己破産したのだから
財産などなく僕は自分の名前では
銀行からお金を借りる事も出来ない。

その現実は自分が一番解っていた。
自分が分不相応の買い物をしたり
博打につぎ込んだりしたわけではないが、
この自己破産は自分の弱さが導き、
そして社会に迷惑をかけているのだ。

当然僕の心はどこか後ろめたく、
どこかで日蔭者の想いがあった。

だから「そんな自分は苦労を
しなきゃいけない」という
自分への十字架の様な物を
背負った気持ちでいたのだ。

そんな僕に剛は
「自分らしく生きろ」
と言ってくれていた。

こうも言った。

「南がただのツレなら
金なんか出さない。
でもお前の実力を信じてる」

僕は心の底から嬉しかった。
だが即答はしなかった。

僕はそこからも大いに悩んだ。

確かに無二の親友の申し出は嬉しい。
お互いに人生をかけた選択になる。
何より剛とは19歳の頃からのツレで、
お互いにどうにもならない若者だった
頃をよく知っている。
そして彼が前々職で一気にスターダムに
駆け上る頃、当時の僕の店の人気も
一気に爆発した。

だからお互いにツレであり、
ライバルでありという意識があった。

「親友にお金を出して貰ったら、
これからの二人の関係が
変わるんじゃないか?
もし失敗したら、
二度と元には
戻れないんじゃないか?
剛に出してもらうという事は、
今までと何も変わらないのじゃ
ないか?」

僕はまだ小さな下らないプライドに
からめとられていたのだ。

何日も何日も考えた。
剛はそんな僕に答えを
急ぐ事はしなかった。
彼は解っていたのだろう。

僕の心のリハビリが全く
終わってない事を。

12年間での店長時代は
僕の心に大きな傷を残した。
毎晩の様に悪夢をみて、
毎朝全身に汗をかいて目覚める。

そんな毎日が仕事を辞めた後も
ずっと続いていたのだ。

剛からの申し出を、
「考えたくない」
とひとまず棚に上げた時期もあった。

何を考えても全てが店長時代の
悪い思い出に結びついてしまうからだ。

そんなどっちつかずの態度を
取り続けていた僕の心を
動かしたのも、剛だった。

剛は僕が今までの仕事を
「辞めたい」と言い出した
ちょうどそのタイミングで
『会社を起こす』
決意をしていた。

今皆さんが読んでくれている
このブログを書かせて貰っている
IGAZO LIMITEDがそうだ。

まだ出来たばかりで
走り始めたばかりの会社だ。
その中で僕に投資をするというのは
彼のビジネスコンテンツの中でも
一番の博打かも知れなかった。
もしかしたら僕が失敗したら
彼の出来たばっかしの会社は
大打撃を受けるかも知れない。

「南、でもさ、元々俺たちなんて
何でもなかったじゃん。
何者でもないんだよ。
もし失敗したら笑うしかないんだよ。
もし失敗したら、
また引越屋でバイトしながら
バンドやろうよ」

・・・僕はここで気付いた。

僕はずっと
『何者か』
になりたかったのだ。

普通の人ではない
『特別な誰か』
に。

例えば、

西郷隆盛みたいに。
ジョンレノンみたいに。
楠正成みたいに。
坂口安吾みたいに。

何か歴史に名前を残して
華々しく死んでいく
何者かになりたかったのだ。

だが僕は僕でしかなく、
39歳になって手にしたものは、
自己破産した事実くらいの物だった。

そう思うと、
なんだかずいぶん背伸びして
自分を少しでも大き見せようと
あがいてきた自分の半生が
笑えておかしくなってきた。

もっと心の奥から沸いて来る
自分の声を聞いてみよう。
聞かなきゃいけない。

僕はこの人生で何を望んでいるんだろう?

それは以前にこのブログで書いた
親友で今では京都でカリスマシェフに
なっているモトイの言葉に集約されていた。

「俺らはヤンキーとかちゃうんすよ。
自己表現したかっただけなんすよ」

そう、自己表現したかったのだ。

お金とか、名声とか、人気とか、
いつからそんなものに絡めとられて
きたのだろう?

なんだってこんな窮屈な生き方を
してきたのだろう?

僕の視界は急に開けた気持ちになり、
ほどなくして僕は剛に連絡をした。

「剛、ありがとう。俺、やるわ」

以下、次回に続く。