ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第44回

「大祐、お前物件探してこいよ」

僕はいきなりのこの言葉の
意味する所が全く解らなかった。

2号店を出すというのならまだ早すぎる。
単純に移転するというなら理由が解らない。

「いや、まだこの場所で何も成し遂げて
ないので、この場所で結果を出したいと
思ってます」

そう答えるしかなかった。

僕の返答を聞いたBさんは明らかに苛立った。

「お前さ、この場所に愛着があるのは
解るけど、今ですでに結果も出てねぇのに
そんな小さな事にこだわってたら、
ジジィになっちまうぞ!」

そしてそのまま店から出て行ってしまった。

「なんえ、今の言葉?」

僕は苛立った。
何が言いたかったのだろう?
往々にしてBさんは自分の中で
考えた事が最上の答えであるとして
その考えと同じ考えを
周りに求める。

だから僕たち社員は
Bさんがどういう意味で言っているのかを
常に答え探しをしなくてはならなかった。

しかし元々Bさんに育てられた訳でもなく、
突然同じ会社になった人の考えなど
解るはずもなかった。

この言葉の真意は、僕以外のメンバーで
開いたミーティングで明かされ、
後になって僕は居酒屋の社員達から
聞かされる事になった。

その内容とは、

「今は居酒屋が絶好調だ。
特に週末は店に入れないくらいに
お客様が溢れている。
そのお客様を取りこぼしたくない。
しかもらーめん屋は売り上げが
横ばいが続いていて成長するように
見えない。
何よりらーめん屋は新しい
スタッフが入らない。
これはひとえに大祐の性格が
ハードコア過ぎるから、
大祐が人間味が無さ過ぎるから、
誰もあいつとは働きたくないのだ。
あいつには人を育てたり、
人を惹きつけたりするのは無理だろう。
一生かかってもあいつには
誰も寄りつかねぇよ。
だから、らーめん屋は売り上げが
下がってもいいからもっと
小さくて一人でどうにか
回せる場所に移転させよう。
そしてらーめん屋のある一階を
居酒屋にしてしまおう。
大祐には好きならーめんを
一生ひたすら続けさせたら
いいだろう。」

という内容だったそうだ。

そしてそれは決定事項になった。
簡単に言えば左遷だった。

そしてこのブログを読んでくれている
人に覚えておいてほしい。

「大祐は性格がハードコア過ぎる。
人を惹きつける魅力がない。
誰もあいつとは働きたくない」

これが僕のこの会社での評価になる。
それは本当のことなのだろうか?
僕は本当に性格がハードコア過ぎるから
誰も寄りつかないのだろうか?

この事はこのブログの中で
検証していきたい。

僕は悔しかった。
そんなにらーめん屋の成績が
悪かったのだろうか?
僕が何か致命的なミスでも
犯したのだろうか?

何度もこのブログで書いているが、
僕は自分で損益分岐を出していた。
僕の計算が極端に狂っていなければ、
らーめん屋は確実に貯蓄をしている
筈だった。

そして好調な居酒屋を伸ばすためなら、
最初からそう言ってくれれば
納得も出来た筈だ。
しかしそこで出てきたのは僕の
『人間性』
についてだった。

僕が歪んだ人間で、
誰も僕に着いてこないから?
そこが本当に理由なのだろうか?

だから僕は絶対移転先で結果を
出してやろうと決意していた。
有無を言わさない結果を出してやると。
人も育ててやると。

そして新しい物件は意外なくらいに
近くで見つかる。
徒歩30秒という距離だったが、
表通りから見えない場所にあり、
住宅地の真ん中だった。
そしてその場所は、
今まで入った店が全て失敗してきた
イメージのあまり良くない場所だった。

この移転の話と前後して、
ありとあらゆる問題が起こった。

まずBさんが味に口出しを
するようになる。
今まで豚骨一本で来たらーめんを、
「魚介を加えて、使っている
ガラの量を1/3にしろ」
と言い出した。
そして
「俺は月に○千万も売る男だぞ」
とも。

そして、らーめん屋移転と
居酒屋の拡張工事の費用を
僕たち社員に負担するように
言って来た。

僕は耳を疑った。
会社の運営するお金を社員に
出させる会社が世の中に
あるのだろうか?

その理由としてはこうだった。

「俺はお前たちの仕事を
守るためにリスクを背負って
合併して守ってやった。
その事に責任を持つために、
自分達で負担できる所は負担しろ。
これは貯金を出せ、とか、
会社の借金の保証人になれ、
とかそういう話ではない。
自分達で借金を組んでこい」

という話だった。
僕は言ってる内容の
意味が解らなかった。

なぜ会社のトップダウン
決まった事業の負担を社員が
する必要があるのだろうか?

そして、会社員は事業資金としては
借金をするのは難しい。
そこで出された指示は、
「自分達でどうにかしろ」
だった。

僕は恐怖だった。
いったいどうすれば事業資金を
工面する事ができるのだろう?
僕は始めて銀行の融資担当窓口に
行く事になった。
当然の様に簡単に断られた。
解っていた話だが、
会社員は事業資金は
貸してもらえないのだ。
この時の銀行員の表情を忘れない。
僕は完全に訝しがられていた。
僕は本当に恥ずかしかった。
そして結局カードローンで
まとまったお金を借りて
会社に渡した。
そのお金がどう使われて
いつ帰ってくるのか全く解らなかった。

なぜそこまで
しなくてはいけないのだろう?
誰もが納得が出来なかった。

しかし僕たちはこれに
従う事になる。

どういう理論で従う事になったのか?
これを文章で説明するのは不可能だ。
これが前回のブログで書いた
『潰し』
の力なのだ。

気がついたら、僕たちは
「はい、解りました」
と言わざるを得ない気持ちになっている。
話し合いをしている時は、
Bさんに言われている事が正しく思え、
納得してしまう。
しかしずっと説明出来ない
しこりや滓が溜まる。

Bさんとまともに論議して
敵う人などいないだろう。
いつの間にか自分でも解らない
沼の様なものにはまっていっている
気持ちになってくる。

僕はいつもBさんとの話が
長引くと不思議な感覚に陥った。
机の向かいに座っているBさんが、
なぜかどんどんと遠く離れていく
様な錯覚を起こし始める。
そして焦点が合わなくなってきて、
何の話をしているのかも解らなく
なってくるのだ。
一言で言うと
『気が遠くなる』
のだ。

「この人は一体何の話を
しているのだろう?」

そう思っているうちに、
もう話す事が苦痛になってくる。
この場を早くやり過ごしたいと
思うようになり、いつの間にか
「はい、解りました」
等と言ってしまっているのだ。

そうしているうちに僕たちは
自分達の考えや正しさを忘れてしまい、
泥人形の様になってしまっていた。

それが『潰し』というテクニックだとは
知る由もないのだから、
「Bさんが正しくて、自分が間違っている」
と思いこむようになっていた。

今、振り返って思ってみると、
洗脳に近い事の様な気がしてくる。
自分を否定する→
その後、そもそも自分の中にない
新しい考えを受け入れる。

それがまるでスマートフォン
アプリが自動更新される様に
いつの間にかダウンロード
されているのだ。
僕の頭の中に。

結局そのお金は戻っては来なかった。
Bさんに言わせるとそのお金は
『投資』
との事だった。

その後何かと僕たちはお金で
様々な責任を取ってきたり、
良く解らない事でお金を
負担していく事になる。

お金に振り回される生き方と
いうのはなんてさもしい事だろう。

僕たちは皆徐々に
目の輝きを失っていった。

 

以下次回に続く。