金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第38回

僕は僕が引き起こした
『クーデター騒動』
から二ヶ月間、
全く呑気に何の屈託もなく
仕事を続けていた。
呑気と言うよりも、
ご機嫌に近い状態だった。

裏で行われている事も知らずに。

ある雨の日だった。
その日の仕事を営業を終えて
事務仕事をしていると、
居酒屋の店長のHさんがらーめん屋に
入ってきた。

「大祐に話があるんだ」

という表情は沈鬱で明らかに
良い話ではない事は感じ取れた。

Hさんは居酒屋を辞める、
と言い出した。
「え!?なんで!?
状況が良くなろうと
しているこの時期に!?」

Hさんの言っている事が全く理解できない
僕にHさんが説明をしてくれたのだが、
その内容もいまいち解らなかった。

「居酒屋2号店の店長Jが辞めると言っている。
Aさんは「あんなやついらない」と言っている。
Jが辞めたらうちの会社は傾く。
それを理解せずに切ろうとしている
Aさんとはもうやっていけない。
俺も辞める」

と言うのだ。
僕はなぜJさんが辞めたがっていて、
Aさんはそれを引きとめようとしないのか?
そしてその事でなぜHさんまであっさりと
辞める決断をしたのか?

僕には全てが不思議なままだった。

ただ、二か月前に僕が中心となって
あんな騒動を引き起こし、
そして僕以外のメンバーはどこか
冷淡だったにも関わらず、
今回は僕以外のメンバーが僕の知らない
所で何事か動き出している、
その事に腹が立った。

僕はすぐにJさんに電話をして、
仕事が終わったら始発で2号店に
Jさんに会いに行く旨を伝えた。

そこで話を聞きたいと。

Jさんと僕は早朝から営業をしている
コーヒーショップに入ったのだが、
怒りにかられて激しく問い詰める
僕に、Jさんはなんでそんなに
怒ってるの?といった困惑の表情を
浮かべて、問いただそうとしている
僕に逆質問をしてきた。

「大祐は本当に何も知らないの?」

「なんの事ですか?何も知らないですよ!」

「そうか・・・知らないのか・・・」

そう呟くとJさんは固く目を閉じて
腕を組み、無言になってしまった。

僕はJさんのその表情をみて
諦めてしまった。
もう誰も当てに出来ない。
辞めていくなら仕方がない。
そもそも、
みんな僕と会話をしようとしない、
その事に腹が立った。
僕の知らない所で何かが起きている。

ならばそこは究明しない。
残ったメンバーでどうにかするしかない。

僕はまずAさんと話をした。

「辞めていく奴は仕方がない。
やる気のない奴には去ってもらいましょう。
規模を縮小したとしても、
生き残る方法を考えましょう。
前回は僕が主導で騒動を起こしました。
でもあの時は全員で話しましたし、
結果は自分のやり方が乱暴過ぎて
反省しました。
でも今回は違います。
個人の気持ちで辞めようと
しているのですから、
僕たちは生き残る事だけを考えましょう!」

Aさんは僕の言葉に感動して
泣きそうになっていた。
僕はまず料理長だけは引き留めようと考えた。
Aさんにはとにかく毎日、
昔の様に働いてもらう。
その中で料理長さえいれば
居酒屋の営業はどうにかなる。
居酒屋の三階のフロアはひとまず使わない方向で、
最低の人数だけで店を回そう。
家賃がもったいないなら、
いっそのこと僕が住んでしまえばいい。
二号店を潰すのは借金を背負う事になるが、
居酒屋とらーめん屋の売り上げから
コツコツ返していけばいい、
Aさんにその様に僕の作戦を伝えた。

それから何日かした夜中だった。
僕はその頃になると居酒屋の
スタッフの顔も見たくなかったので、
仕事が終わったら
真っ直ぐに家に帰っていた。

もう寝ようとしたその時、
Aさんから電話がかかってきた。

「あ、大祐?もう寝てた?
今さ、大祐以外の社員全員と
Bも来てるんだけど、
大祐も来てくれないかな?」

僕はそのメンバーでの話し合いが
あまりいい雰囲気ではないと思い、
行きたくないと告げた。
すると電話口の向こうでBさんの
声が聞こえた。

「大祐は続けるって言ってんだろ?
じゃぁ、別にいいんじゃねぇの?」

僕はその言葉に
軽い反感の様な物を感じたが、
とにかく布団に入る事にした。
・・・しかし全く寝付けない。
寝ようとすればするほど
目が冴えてくる。
僕の頭に浮かんでくる映像は、
全員でAさんを
吊るし上げてるイメージだった。
僕はいてもたってもいられなくなり、
バイクで急いで店へと向かった。

居酒屋のテーブルを囲んで、
全員が重い顔をしていた。

なぜJさんやHさんや料理長
辞めると言い出したか?
その理由はこうだった。
「前回の騒動の時、
Bさんが間に入る形で事は収まった。
しかしAさんがBさんに
細々と注意や説教をされる事に
腹が立って絶交をした。
だからこの先はない。」
だから辞めるというのだった。

僕は辞めると言っている
三人に激怒をした。
前回は僕のやり方が乱暴だったとはいえ、
Aさんにミーティングをする事の了承を
もらい、全員で話した結果だった。

今回は僕以外のメンバーでBさんを
動かした。

この方がクーデターではないのか!?と。

とても姑息なやり方に感じた。
その説明はBさんがした。
「俺はJからは相談は受けたよ。
でも裏で全員で画策したわけじゃない。
俺一人の判断で来たんだ。
みんなをそんなに
責めないでやってくれ。
それに頑張って働きたい気持ちは、
みんな一緒だと思うよ。
あの嘆願書であったように。
だからちゃんと働ける話を
しに来たんだ。
大祐はそんなにカッカせずに
最後までちゃんと
話に参加してくれ」

そこまで説明されると、
僕はひとまずどんな話に
なるのか静観する事にした。

この後はBさんが続けた。

「居酒屋もらーめん屋も
売り上げもあるのに、
社長がめちゃくちゃだから
会社がなくなるなんて、
前代未聞だよ。
この状況を救う手立ては
一つしかないよ。
A、お前、社長辞めろ。
そしてみんなで一つの会社になろう。
Aは新しい会社の取締役になりな。
そして代表取締役は俺がなる。
だが、一つの会社になっとは言え、
居酒屋とらーめん屋の通帳には
一切触らない。
俺たちは俺たち、
お前たちはお前達で責任を持って
運営していこう」

一見良い話に思えた。
しかし、僕は元々このBさんと
Bさんの会社の雰囲気が苦手なのだ。
僕はその提案には反対したかった。
だからと言って、
料理長も辞めると言っている
今の状況ではそのBさんの
提案以上にいいアイデア
思いつかなかった。

それ以上に、その時にAさんの
放った一言が僕を愕然とさせた。

「・・・大祐さ、どう思う?」
「・・・正直なんとも言えないです。
急ですし・・・。
でも、このまま
みんなで頑張る事を思うと、
Bさんの提案が・・・」
「違うよ!
みんなの事なんて聞いてないよ!
俺にとってどうか?
って聞いてんだよ!」

僕はこの一言で心が折れていた。
この期に及んでまでAさんは
自分の事しか考えてなかったのだ。
Aさんとはこれ以上
一緒に仕事は出来ない。
だが、Bさんの会社に
入る事は避けたい。
しかし僕にはどうする事も
出来なかった。

そしてそれ以上に、
今の店での仕事を
手放したくなかったのだ。
少しずつ売り上げも評価もあがり、
お客様からの反応もいい物を
いただきつつあった。
自分の腕もこれから
もっとあげたかった。
それをここで足止め
されたくなかったのだ。

今思えばそれも
自分の信念のなさから
来ていたのかも知れない。

結局、僕はBさんに
頭を下げる事を選択した。
僕にはBさんに頭を下げるしか選択の
余地はないように思われた。

「・・・・よろしくお願いします」

話し合いが全て終わったら、
すでに朝は明けていた。

僕はHさんと二人で店にいた。

「・・・なんかね、あんまし望んで
ない方向で落ち着いた気がするんですよね。
これで良かったのかなぁ?
これしかなかったんですよね?」

「・・・うん、俺は一度辞めるって
言っちゃったから、
ちょっとテンションは戻らないかな・・・。
でもやるしかないよね」

僕もHさん虚脱した状態で解散した。
今思えば、ここか本当の苦労の始まりだった。

やけにまぶしい朝日だった事を覚えている。
それはまるで自分達の前途を思うと皮肉の
様にまぶしい陽の光だった。

 

 

『らーめん屋開業時代』シリーズはここまでです。
少し現在の話をはさんだら、
『らーめん屋移転編』を始めます。

どうぞよろしくお願いします。