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金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第37回

ミーティングも終わりかけた頃、
急に現われたのはBさんだった。
Bさんとは、
ブログ29回に登場したAさんの親友だ。

Aさんは親友と呼んでいたが、
その関係性は僕から見たら
『親分』と『子分』
『兄貴』と『舎弟』
ジャイアン』と『スネオ』
にしか見えなかった。

AさんがひたすらBさんに気を使い、
Aさんは何かとBさんの真似をした。
言動から車のカラー選択まで。
恐らくAさんにとってBさんは
『憧れ』の存在だったのだろう。
Bさんの周りに有無を言わせない
雰囲気と威圧感は、一言で言うと
『ただ者』
ではなかった。

僕にも親友と呼べる人間が何人かいる。
そしてそうした友人を持てる事は、
人生の中で大きな喜びだ。

親友の定義って一体何だろう?

お互いに尊敬しあい、
尊重し合い、
そしてお互いの前では飾る必要もなく、
カッコ悪い所も全て曝け出せて、
それでいて、一緒に過ごせる時間は
家族や恋人とはまた違う
安心感があって・・・。

言葉で説明しようとすると
どうしても陳腐なものになるのだが、
そうした理屈を超えた部分で
付き合えるのが親友だと思う。

だからAさんとBさんの関係性を
みると、どうしても
「親友ってこんなに肩に力の
入る様な関係なん!?」
と不思議に思っていたし、
親友の定義についてどうしても
考えさせられた。

Bさんは明らかに怒りのオーラをまとって、
自分の取り巻きを引き連れて
僕たちの前に現れた。

僕はいくらAさんとBさんが親友とはいえ、
僕たちとは無関係の会社の人が
いきなりやってくるのは不愉快に感じた。

「おう、お前ら、座れよ」

と自分の取り巻きは周りに立たせたまま、
僕たちは一つのテーブルを囲んで座った。

僕は気に入らなかったら
殴りかかるつもりでいた。
そしてそれ以上に、
こうした周りに緊張を与える人物を
Aさんが自分の社員である僕たちの
元へと送ったのか!?
とさらにAさんへの嫌悪感を強めた。

その席は不穏な空気のまま話し合いが始まった。

身長が180センチ以上あり、
体重も120キロくらいあり、
スキンヘッドで明らかに堅気でない
雰囲気をまとっていたBさんの事を
僕も含めて全員が恐れていたし、
緊張していた。

そもそも、僕はこのBさんがあまり
得意ではなかった事は先のブログで
書いたとおりだ。
そしてBさんも僕の事はあまり
好きではなかったらしい。

そんな僕たちの話し合いは、
僕たちの言っている事に対して
Bさんが胴間声で恫喝する様な
流れが続いていた。

まるで僕たちが絞りあげられて
いる様な空気だった。

僕は次第にイライラしてきて、
Bさんを殴ってしまえばいいのではないか?
と持ち前の短絡的で
やけっぱちな気持ちが沸いてきた。

覚えておいて欲しい。
僕は自分の思い通りにいかない事があると、
すぐにやけっぱちの様な気持に
なってしまう悪癖がある。
色んな事がどうでもよくなってしまうのだ。
そうなると思考は停止して、
何もかもをめちゃくちゃにしてしまいたく
なるような衝動にかられる。
これは僕の最大の悪癖だろう。
だから気持ちの入らない
仕事はとても雑になる。

イライラしてきて
もうどうでもいいかな、
と思い始めたその時、
Bさんは僕たちが書いた
『嘆願書』を
手に取り読み始めた。
嘆願書を読み始めたBさんは無言になり、
次第に声を殺して笑い始めた。

僕のイライラはピークに達していたが、
Bさんの反応を待つ事にした。

ゆっくりとBさんは口を開くと

「・・・お前たちの言ってる事は、
合ってる。正しい」

と、今までの恫喝に近い話し方から
一転して穏やかに言い始めた。

「俺はさ、お前たちがバイトの女の子の
気持ちに肩入れしてこんなクーデター
みたいな真似をしたのかと思って頭に
きたんだ。
バイトの女が傷つこうが
知ったこっちゃねぇじゃねぇか。
経営者はリスクを背負ってんだし、
それで評判を落とすなら自業自得だし。
でもここに書かれてる内容は当然の事だ。
お前たちの気持ちは解る。
でもな、大祐。
お前のやり方は認められない。
腕力に自信があるからか知らねぇけど、
暴力ちらつかせて相手に迫って、
それでお互いに納得のいく話し合いが
出来んのかよ?

お前みたいなのに「殺す」とか言われたら、
誰だってまともな判断出来なくなっちまうよ。
お前はずるいよ。
そうして暴力ちらつかせて、
相手を屈しようとしたんだ。
そこはちゃんとAに謝れよ。

この嘆願書を突き付けて、
この通りに出来なかったら辞めます、
みたいなクーデターみたいなやり方は
良くねぇよ。

でもよ、お前たちの気持ちは解ったよ。
俺もAの事が放っておけねぇから、
あいつの事は俺に任せろよ。
俺が教育するから。
だからさ、お前らは変わらず働けよ」

と言った。

それは正論だった。
女の子の気持ちはどうだっていい、
には賛同できないが、
確かに僕のやり方は良くなかった。
そこは大いに反省した。

話の決着としては、
AさんにはBさんが話す。
Aさんは確かに問題は多いが、
そこに僕たちが入ると
また揉めることになるから、
もう任せてくれ、と。
俺(Bさん)は会社としては無関係だが、
このまま放っておく事は
親友として出来ない。

そして、大祐は暴力をチラつかせた事は、
きちんと謝れ、と。

僕はなんの利益にもならないBさんの
そうした行動を立派だと思ったし、
今までBさんに感じた事のなかった
尊敬の念を感じ始めていた。

僕は翌日、Aさんに謝罪をした。
Aさんはどこか罰が悪そうで、
「大祐、解ってくれ、
俺がBに行けって
言った訳じゃないんだ。
事の顛末を話したら、
もう止められないくらいの勢いで
行ってしまったんだ。
そして、もうひとつ解ってくれ。
俺はあの子には手は出していない。
そこだけは解ってくれ」

とAさんは続けた。
謝罪している僕と、
その僕にひたすら釈明をしている
Aさんとの会話はどこか滑稽だったが、
僕はAさんの事を信頼できないし
尊敬出来ないとも思いながらも、

「この人って、憎めないな・・・」

とも思っていた。
いい加減な人ではあったが、
人間味のある人だった。

僕はこの時、安心しきっていた。

Aさんも心を入れ替えて頑張ってる。
Bさんはわざわざ利益に
ならない事をしてくれてる。
そして僕たちはこれからも
変わらず頑張る続ける。

BさんがAさんを監督する事で
僕たちの生活も少しは良くなるかも
知れない・・・。

そんな淡い期待も感じていた。

しかし人生とはそんなに上手くは行かない。
この二ヶ月後、
風雲急を告げる出来事が起きる。

次回が『らーめん屋屋開業時代』の
最終回になります。

どうぞよろしくお願いします。