ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第36回

ファミレスにやってきたAさんは
明らかに怒っていた。
その怒りがどこから来ているかと
聞かれたら、単純に

『部下である南が社長である自分に
歯向かおうとしている』

という部分だけだったと思う。

Aさんはその小柄で小太りな体を
大げさに左右に揺らして、
いかにも僕に対して『威圧』しようと
している態度で僕とHさんの座っている
テーブルへと近づいてきた。

店に響くくらいに大きな音を立てて
椅子を引いたかと思うと、
体の右側半分を椅子に座ったままの
僕の方へ傾けて、
大げさにテーブルを右こぶしで
叩きつけながら席に座った。

強く握った右手こぶしに体重を乗せて
体をグイと前に乗りださせ、
僕を睨みつけながら凄みを効かせた
声をだした。

「おう、大祐、俺に話があるらしいじゃねぇか」

ここまで2年くらい苦楽を共にしてきた
Hさんは、どこか達観しているというか、
どう転んでも仕方がないよな、という
諦観を滲ませながら僕とAさんのやり取りを
静かに見ていた。

僕はというと、ここまで来てこの人は
まだ小さな見栄の様な物で
凝り固まっているんだな・・・
と思うと、なんだか何もかもが
バカバカしい様な気持になってきて、
静かに口を開いた。

「もうなんでもいいんで、
タイマン張ってもらっていいです?」

この一言で明らかにAさんは動揺した。

「タイマンはってなんになるんだよ?」
「いや、もうどうでもいいんで、
Aさんの事、殴り倒して自首しますわ」
「だから、それがなんになるんだよ!?」

Aさんは怒鳴り口調になっていた。

「もうね、なにになるとか、
そういうんじゃないんですよ。
Aさんをボコボコにしたい
だけなんですよね」

「あぁ!?」
Aさんは大声を出した。
大声で僕を怯ませようとしたのかも知れない。
そこで僕も自分でも何を言ったか
解らないくらいに汚い言葉でAさんを
罵り、立ち上がってAさを掴もうとした。

「大祐!大祐!そういう態度を
取るんじゃねぇ!
ちゃんと思ってる事を伝えろ!」

そこで常に冷静に見守ってくれていた
Hさんが間に入ってくれて、
僕は椅子に腰を降ろして
Hさんに謝った。
Hさんは話し合いの場所を作るために
Aさんを呼び出してくれたのだ。
何も子供じみた殴り合いをするためじゃない。

僕はHさんの言葉で冷静さを取り戻し、
Aさんへの不満を一つ一つ説明した。

最初は僕に対して尊大な態度を崩さなかった
Aさんだが、僕の話を聞いているうちに
徐々に落ち込み始め、最後は泣き出して
しまった。

泣かれたからと言って、僕の気持ちが
すっきりするわけではなく、
とにかくこんな気持ちでは仕事なんか
したくない、今日はAさん以外の社員全員で
ミーティングをしたいと申し出て、
その了承をもらい僕たちは
ファミレスから解散した。

今でも解らないのだが、
Aさんはあの時なぜ泣いたのだろう?
自分の取っている行動が、
自分の哲学通りで何の間違いも
ないのであれば、堂々と
「お前が間違っている!」
と僕に言えば良かったのだ。
しかしそうしなかったのは、
店にも来ないで何をしているのか
解らない時間を後ろめたく思いながら
過ごしていたのだろうか?

今でも不思議なのだが、
Aさんは会社を興す事で何が
したかったのだろう?
この世の中に何を残したかったのだろう?
そもそも何も目標もなく会社を
興したのだろうか?

高い志を持ちながら、
様々な理由で道を閉ざされて
しまう人がたくさんいる。
Aさんは、この時点であらゆる物を
手に入れていた。

人よりも自由に使える
金、時間、寄ってくる女性、
高級車、経営者としての名声・・・。

しかし、それらはただの
『記号』
でしかない。

人が心から求めるものとは、
愛、友情、心の平穏、
そして本当に人に喜んで貰う事が
出来るかけがえのない
仕事ではないだろうか?

お金や時間やそれらの
『記号』
は、所詮は後からついてくるグリコの
おまけの様なものなのだと思っている。

Aさんはそれらの解りやすい『記号』が
欲しかったのだろうか?

僕はこの時点では何も持てていなかった。
僕も見栄やハッタリばかりが先行していた。
つまらない欲望や、小さな虚栄心、下心や
妬みの感情からも抜けれなかった。

ただ、『らーめんを作りたい』、その思いだけは、
心の奥底から沸いて来る気持ちそのものだった。

らーめんを作った結果、
誰かが喜んでくれるのなら、
そんな幸せな事はなかった。

ただ、僕の場合は、
『独立する』
『時間を作る』
『この先の展開を見据える』
と言ったマネージメントの部分が
すっぽりと欠落していた。

だからAさんの誘いに何の考えも
なしに乗っかり、
そしてAさんに勝手に失望したのだ。

Aさんは、僕と知り合うまえから、
ありのままのAさんのままなのだ。

僕の悪い癖だ。
『勝手に人に期待しすぎる』

だから、今このブログを書いていて思う。

Aさんはきっと僕達以外の人と商売をしても
きっと同じ結末を辿っただろう。
しかし、僕がこの時に感じていた不満は、
『僕が引き寄せた』のだ。

だからAさんが悪いのでもなく、
僕が正しいのでもなく、
当時の僕のまるで未来への方向性のない
子供の様な幼い性質が一番の原因なのだ。

話を本題に戻そう。

その日の夜、居酒屋もらーめん屋も閉めて
Hさん、料理長、居酒屋の社員、僕の4人で
ミーティングをする事になった。

はっきり言って、まわりのメンバーは
「あんまり騒動を起こすなよ」
といった白けたムードが
あった事は事実だ。
最初から付き合っくれていたHさんは
どこか事の成り行き見守っている様な
雰囲気で、他の二人は「やれやれ」と
いう僕への呆れの様な
雰囲気は出していたが、
話し出したらそれぞれ不満が吐き出され、
話し合った結果は全員が
「もうやってられない」
という気持ちであると確認された。

だからと言って、
では明日からもう仕事に来ません、
というには無責任すぎると全員が考えていた。
僕たちはこの居酒屋やらーめん屋での仕事が
好きだったし、この仕事で得た人間関係や
温かい気持ちには感謝していたのだ。

そこで僕たちは4人で共同で考えた

『嘆願書』

を製作した。

内容は社会人としては極々当たり前の事が
書かれていた。
「約束は守ってほしい」とか、
「自分で言いだした事は貫いてほしい」
など、社会人として、というよりも
小学校の道徳の時間で教わる様な
事ばかりだった。

取りあえずAさんにこれを提出しよう。
そしてこれを機にみんなで力を合わせて
頑張っていけるのなら、
もうこれ以上騒動を起こすのは辞めよう、
と僕たちは話し合った。

「じゃぁミーティングの内容Aさんにメールで
俺が伝えてるから、
明日にでも5人で集まってもう一度話そうか、
大祐、もうあまり感情的になるなよ・・・」

そうHさんが締めくくったその時だった。

予想外の人物が僕たちの元へとやってきたのだ。

以下、次回に続く。