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金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第35回

このブログを読んでくださってる
皆さん、大変お待たせしました。
大幅な加筆・修正・訂正の作業を
終わらせました。
文章の内容は特には変わってないので、
ここまで続けて読んでくださっている
方は読み返す必要はありません。

これからもコツコツと更新を
していきますので、
どうぞよろしくお願いします。

 

 

Aさんへは誰もが不満を持ち、
納得のいかない気持ちのまま
働き続けていた。

居酒屋はらーめん屋に一ヶ月
遅れて拡張移転していた。
今までが7坪だった店が、
15坪の2フロアの大きな居酒屋に
生まれ変わった。
スタッフも増えて居酒屋は
活況を見せていた。

しかしその活況とは裏腹に、
全スタッフがこの会社に帰属意識
持てないままでいた。

まず全く目標が見えない。
どこまで働けば、
どのような結果を出せば、
達成感や金銭的なゆとりが持てるのか、
全く先が見えなかった。
会社は社会保険を整備する事もせず、
僕たちは飲食店で修業を始めたばかりの
見習いくらいの給料で働いていた。
らーめん屋も居酒屋も労働時間は
ひたすら長かった。
毎日が息の詰まる様な思いだった。

僕たちは社長であるAさんを中心に
度々ミーティングを開くのだが、
それは内容なんてまるでない
『ミーティングごっこ』
だった。

結局何の結論も出ないまま、
「じゃぁ、頑張ろう!」
等と曖昧な答えになっていない
言葉でいつもミーティングは
締めくくられる。

僕はそのミーティングで度々
「会社としての目標を持ちましょう」
「会社として何を目指すのか決めましょう」
「社長が理念を見せてください」
等と話していたが、Aさんはそれには
全く応えてくれなかった。
応えない、というよりも
応えるべき理念や目標なんて
なかったのだろう。

だから僕たちスタッフは、
個人個人がそれぞれバラバラの
方向を向いていた。

僕はもう自分の作るらーめんにしか
興味がなかった。
後はどのタイミングで独立するか?
この頃、この店を買い取るには
いくら必要か?等と考えていた。
とにかく貯金が出来るほどには
収入がなかったため、
どうしていいか全く先が見えなかった。

僕にとって居酒屋は、仕事が終わった後に
軽く飲んで帰る『都合のいい店』でしか
なかった。

僕たちの心はAさんからは完全に
離れていた。
Aさんはその頃になると、
どこで何をしているのかも
解らなくなっていた。
社長だから、会社は自分の思う
通りに動かすべきだと思うが、
僕たちスタッフはいつでも辞めたい
気持ちになっていた。
もし自分の代わりがいれば、
みんな辞めていっただろう。
ただ、僕は自分の味で
らーめんを作っている。

だから、「はい辞めます」とは
言いにくい立場にはいた。
まだまだ発展途上で開発途中の
自分のレシピを簡単に第三者に
渡す事も生理的に出来なかった。

どうにか結果を出してから、
自分のこの先の道筋を作ってから
辞めなくてはいけないと考えていた。

そんなある日、事件が起こる。
というより、僕が事件を起こす。

僕はらーめん屋の仕事を終えて
居酒屋で飲んでいた。
すぐに家に帰って寝るべきなのだが、
その頃は「飲まなきゃやってられない」
といった精神状態で、毎晩睡眠時間を
削る様にして飲んでいた。

たまたまその時に居酒屋の元バイトの
女の子が友達と飲みに来てたのだ。
居酒屋が閉店する時間になっても
その二人はまだ話足りないらしく、
僕と店長のHさんと女の子二人の
計4人で24時間営業のファミレスへと
向かった。

居酒屋にいる間は楽しく世間話を
していたのだが、ファミレスに
入ったあたりから女の子たちの
会話が少し熱を帯び出した。

「なんで大ちゃんはそんなに
頑張れるの?!」
「なんで大ちゃんみたいな真面目な
人があんないい加減なAさんの下で
働いてるの!?」

どうやら二人はAさんへの不満を
僕にぶちまけたかった様子だった。

僕は自分も不満があるとはいえ、
もう退職した元アルバイトの意見に
同調すべきではないと思い、
「まぁまぁ、あの人もいいとこ
あるから。こうして俺にチャンスを
くれたわけだし」
なんてなだめようとしたのだが、
僕のその曖昧な態度がさらに二人の
感情をヒートアップさせた。

「それだけ!?
大ちゃんはらーめんを作れるから
我慢してるの!?
信じられない!!」

こうなるともう会話にならなかった。
そこで僕はなぜそこまでもう辞めた
バイト先の社長に腹を立てているのか
理由を聞く事にした。
「なぁ、ちょっと教えて欲しいねんけど、
なんでそこまで怒ってるの?
俺たち社員なら待遇の不満とか
出そうなもんやけど、君はバイトやん」

「信じられない!そういう問題じゃない!」

僕は最初から全部話を聞くことにした。

事の顛末はこうだった。

この女の子と、一人の居酒屋の社員が
お互いに思いを寄せた時期があった。
その事は僕も知っていたし、僕は二人が
結ばれればいいと応援をしていた。
しかし、Aさんは

『職場恋愛禁止』

という社是を出していた。

その社是にとやかく言うつもりはなかった。
社長の決めた事なんだから、
それはそれでいい。

しかしお互いを思い合う純粋な気持ちは
貫くべきだと思っていたから、僕はAさんに
内緒で付き合えばいいと思っていた。
実際、二人は美男美女でお似合いだった。
二人が仲良くしてくれる事は、
僕には嬉しかったのだ。

だが僕はお節介な事はせず、
黙って事の成り行きを見守っていた
つもりだった。

しかしその男性社員の方は、
社是を忠実に守り、その女性とは
交際をしない事に決めたという。
その判断も、少し寂しくは思うが、
当人の決めた事だからそれでいいと思う。
周りがとやかく言うことではない。

問題はそのあとだ。

女の子は当然、落ち込む。
失恋したのだから当たり前だ。

そこに突け込んだのが、
なんとAさんだった。

Aさんはその女の子に、
「あいつは今、仕事を頑張ってる。
だから解ってやってくれ」
と慰めたという。

そこまでなら良かった。

「・・・俺がいるじゃないか・・・」

と、その傷心の女性に言いよったのだった。
Aさんとこの女性は結果としては
何も関係は結ばず、
ただAさんが言い寄った
だけに終わったのだが、
女性はこの居酒屋という
職場に大いに不信感を募らせていた。

僕はその話を聞いた瞬間に怒りが
一気に沸いて出た。
まさに瞬間湯沸かし器だ。

こうして振り返ったら、
よくある恋物語かも知れない。

僕は女の子に同情しただけで怒った
訳ではなかった。

もちろん二人の気持ちを弄んだような
結果にも腹が立ったが、その事がきっかけで
日ごろの鬱憤が噴き出てきたのだ。

約束も守らず、先も見えず、金銭的にも
心のゆとりも持てない毎日のなかで、
日ごろ溜め込んできたものが爆発したのだ。

気が着いたら僕は「ぶっ殺す!」などと
口走っていた。

その時に一緒にいたHさんが、
ここまできたら、一度きちんと
ぶつかり合うべきだと提案し、
そのファミレスにAさんを
呼び出す事になった。

とにかく女の子二人は家へと帰し、
僕とHさんはAさんを待った。

次回に続く。