ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第32回

Mの事は一生涯忘れないだろう。

少しMについて語らさせてほしい。

変わった奴だったが、
彼と過ごした時間は本当に濃かった。

僕は彼に何もしてあげれなかった
事を今でも悔やんでいる。

Mとの出会いは修業先のらーめん屋だった。
彼は修業先の専務と店長の知り合いで、
人の伝手を頼って入社してきた。
その時に店長から
「Mの面倒は大ちゃんに任す」
と言われていた。

「すげぇ癖のある奴だから。
仕事は教えてもあまり相手に
しなくていいからね」
なんて店長からは言われていた。

「まぁ、なんとかなるでしょう。
仲良くしますよ」
「・・・やれるもんならやってみな」

店長は最初から匙を投げている風だった。
初めて会ったMは絵にかいた
様な完璧なチンピラだった。
とんでもなく無愛想で無口。
切れ長の愛想もない目つき。
短髪の金髪はセットだか寝ぐせなんだか、
360度あらゆる方向に飛び散っていた。
彼の攻撃性をよく現す髪型だった。

「・・・Mです。
よろしくお願いします・・・」

僕に挨拶する時も頭を下げながらも
僕から視線は外さなかった。
当時僕は25歳。
Mは24歳だった。
その眼差しからは明らかに

「なめられたくない」

という気持ちがひしひしと伝わってきた。

若い時は誰だって通る道だ。
僕もそうだった。
何に対して苛立ってるのかが
自分でも解らないのだけど、
目に写る物の全てが苛立たしくて
仕方がない。
でももう10代の学生じゃない。
なんとか社会に適応してお金を
貰わないといけない。
でもそこで悟った風な顔をして
ペコペコ頭を下げてる自分を
「社会って、大人って、
こういうものだ」
なんてしたり顔で言う様な
大人になんかなりたくない。

だから、弱くて繊細な自分を
守るために周りを攻撃して
突っ張るのだ。

そこから一歩踏み出すには
どうしたらいいのだろう?

僕は
『自分の作ったらーめんで人を幸せにする』
という目標を見つけてから
少しだけ気持ちが落ち着いた。

Mは、らーめんに出会う前の
僕に良く似ていたのだ。

だから僕はMの事を
放っておけなかった。
言葉で書いてしまうと偉そうだが、
とにかく面倒を見た。

店ではMに対して怒鳴り散らし、
蹴飛ばし、投げ飛ばし、
有無を言わせない関係性を作った。
遅刻をした日にはMは店長よりも
先に僕を探して謝りに来たほどだった。

しかし一度店を出たら
朝までとことん遊んだ。
Mが他の人たちと仲良くできる
様に、バカバカしい話をMに振り、
みんなが爆笑している真ん中で
照れ笑いや苦笑いをしている
Mの表情を忘れない。
その表情からは、
「ここは自分の居場所なんだ」
という様な安心感が見て取れて、
僕は嬉しかった。

そもそもが見栄っ張りの
チンピラのMは、そのうち
若いバイトのスタッフを
引き連れて食事に行くようになった。

東北から出てきたMは、
僕かバイトの人達しか遊ぶ人が
いなかったからだ。
そこでMは格好をつけて
食事をご馳走していたらしい。

「南さんは俺の兄貴だから」

Mがそう言っていると
バイトの女の子から聞いた時は、
僕も「・・・あ、そう」なんて
気もない素振りを見せたけど、
本当はめちゃくちゃ嬉しかった。

僕とMは店長の予想をいい意味で
裏切って信頼関係を築いていた。

しかしチンピラだが
そもそもは気が弱くて繊細で、
ついでにあまり体も強くなかった
Mは考え事や悩み事があると
夜に全く眠れなくなる
悪い習慣があった。

そして出勤前くらいにウトウトと
眠気を催し仕事に寝坊をする、
というパターンが何度もあった。

壱八家の時はそれでもまだ良かった。

店長の見ている前で
「このドアホ!!
お前目覚ましかけたんか!!
目覚ましで起きれへんねやったら
耳切り落としてこいや!
今日からお前は耳なし芳一じゃ!
芳一って名乗れ!
このボケ!!」
等と僕がどなり散らせば、
「まぁまぁ、大ちゃん、
その辺にしてやれよ・・・」
と店長が僕を止めてくれる。
そうすればMはそれ以上
誰にも怒られずに済むのだ。

後で時間を作って
「おい、飲みに行くぞ。
そこで話聞いたるわ」
と連れ出し、またバカ話で
Mの気持ちを盛り上げたりしていた。

しかし僕は始業先の中で
東京勤務に選ばれ、
そして退職してしまう。

一気にMとは距離が出来た。

そして地元でのらーめん屋の
開業準備が始まり、僕とAさんが
あまりいい関係でなかった時期の、
とある夜の事だ。

Mから急に電話がかかってきた。
「南さん、僕、Aさんに誘われて
南さんと一緒にラーメン屋をやろうと
思います」

僕はその時の気持ちを正直言うと、
純粋に嬉しかった。
無計画な思いつきで計画や
言う事をコロコロと変える
Aさんに不安を感じていただけに、
この申し入れは明るい希望の
様に感じた。

だが僕はMに考え直す様に伝える。

「絶対に生活は苦しくなる。
この先の事なんて保障もしてやれない。
壱八家でしっかりとキャリアを積んだ
方がお前の為や。
今は感情的になってるだけや。
もう少し考えてから電話して来い」

「・・・解りました」

それから二日ほどしてMから電話がきた。
もう少し始業先で働く、という内容だった。

「そうやな、その方がええ。」

僕はMの言葉に少しの寂しさと、
確かな安心感を覚えて電話を切った。

これがあいつのためなんや。

僕はMに僕と同じような悩みや
生活の苦しさを経験してほしく
なかったのだ。

それからもMは時々Aさんの
居酒屋に遊びにやってきた。
来るたびに修業先の愚痴や文句を
散々述べて帰るのだが、
そもそもがユーモアに乏しくて
一言目には文句を言いたいMの
性格知っている僕はあしらいつつも
Mとの会話を楽しんでいた。

こうして職場が変わっても、
友人として付き合っていけたら
それでいい、そう思っていた。

最初の電話から何カ月も経ち、
らーめん屋のの物件も決まり
工事も始まっていたある日、
いきなりMがAさんに伴われて
僕の前に現れた。

「大祐、新しいスタッフを
連れて来たぞ」
とAさんは自信を漲らせた笑顔を
浮かべている。

「え!?」

と状況が理解できずに
固まったままのMが
僕に言った。

「南さん、俺、今度はなんと
言われてもやりますよ!
俺は南さんと仕事がしたいんです!」

一体、Aさんはなんと言って
Mをそそのかしたのだろう?
一度は僕の説得に同意したMが
修業先を辞めて僕と共に働くと
決めたのだという。

僕は呆れて言葉がなかった。

感情をどこかに置いてきた様な、
空っぽな気持ちで僕はニコニコ
笑っているMをただただ
眺めていた。

次回に続く。