金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第31回

物語の続きに入る前に、
ひとつだけラグビーの話題を。
日本代表にとってのラグビー
ワールドカップが終わりました。
残念ながら決勝トーナメントには
進めませんでしたが、本当に
感動を与えてくれました。

写真のトンプソンルーク選手と
田中史明選手。
この身長差30cm、体重30kgは
あろうかという二人は長年に
渡って日本代表を支えてくれました。
僕はこの写真だけ胸が熱くなります。
ラグビーについてはまたの機会に
詳しく書きます。
今日は・・・
お疲れさまでした!
そしてありがとう!!!
皆さん、ラグビー日本代表
熱い熱い拍手とリスペクトを
お願いします!

FB_IMG_1444634425724トモさん&フミさん

 

 

 

「初日お疲れ!どうだった?」

能天気な声をだして店に入ってきた
Aさんに僕は無言で上半身だけ起こした。
ラーメン屋のスタッフのMは体を
起こす事もなくAさんを無視した。
手伝ってくれてた居酒屋の料理長だけが

「・・・お疲れ様です・・・」

と不機嫌に応えた。

Aさんは僕たちの様子に
明らかに機嫌を悪くし、
その小柄で小太りな肩を
左右にもったいつけて
揺らしながら店に入ってきた。

「・・・なんだよその態度、お前ら」

これに対しても全員無言だった。

「おい、聞いてるのかよ!」
Aさんは怒鳴ったが
誰もがAさんから
視線をそらして無言だった。
Aさんの怒りはみるみる頂点に
達して行くのが解ったが、
完全にへばって開き直っている
僕たちは相手にしなかった。

その中でMだけが口を開いた。

「だって、来ねぇじゃねぇかよ」

「あぁ!?
社長がわざわざ来なきゃ
いけねぇのかよ!?」

これには全員が怒りを通り越して呆れた。

「自分で手伝うって言いましたよね?
初日が社長という立場の人は
気にならないんすか?」

僕も口を開いたら言葉が止まらなかった。

「あぁ!?」

Aさんは理屈ではなく、
自分の社員にこうした反抗的な態度を
取られている事に激昂している様子だった。
何かをわめいているが、
もう理屈も何もなかった。
正直な話、
この時の会話を思い出そうにも
お互いに何を言い合ったのかも
もう思い出せない。

下らない不毛な言い争いだった。

その時にAさんの携帯電話に
着信があり、会話は中断された。
すっかり取り残された僕たちは、
脱力して座った姿勢のまま無言だった。
お互いの顔も見なかった。
その日の朝にビールで出した
やけっぱちの元気なんてもう残って
なかったのだ。

あの時、全員が今すぐ辞めたいと
考えていたのではないだろうか?

そうすると次は僕の携帯がなった。
相手は昼間に来てくれた年上の
飲み仲間からだった。

「・・・だいちゃんさ、
言いにくいんだけど・・・。
お前、なにやってんだよ?
昼間のらーめんなんだよ?
あれじゃ、居酒屋のらーめんデイ
の時の方が美味いじゃん・・・」

こうした内容の電話が何件か続いた。
Aさんは相変わらず外で電話で
誰かと話している。
おそらくAさんの電話にも同様の
話が誰かから来ているのだろう。

そのなかで一つの電話が忘れられない。

「何があったのか知らないけどさ、
これで失敗したらみんなは大ちゃんが
失敗したって思うぞ。
社長はあいつかも知んねぇけど、
大ちゃんがらーめんを作っている
以上、お前が腕がない、
失敗したんだって思われるぞ。
この町で」

この言葉は胸に刺さった。
そうだ、念願の自分の味を試せるのに、
簡単に心が折れていいのか?

僕は自分を恥じた。

電話を終えたAさんはどこか
申し訳ない様な、それでも
僕たちには虚勢を張っていたい様な
複雑な表情をしていた。

「・・・大変なのは解るけどよ、
これがお前らの仕事だろ。
ちゃんとやれよ」

と言い残して店から出て行った。

「・・・なんなんだよ、あいつ」

Mは不機嫌な態度を変えなかった。
僕はMと料理長
「Aさんは確かに納得できないが、
美味いらーめんを出せなかったのは
俺の責任だ。
ここで終わるのはまるでAさんに
負けるみたいでもっと納得いかない。
もう少し頑張ってろう」
といった内容の話をした。

料理長は「・・・まぁ、うん」と
感情が入っていない様子で。
Mは「・・・南さんがそう言うなら」
と明らかに納得はしてないが
仕方なしに、という雰囲気で
同意してくれた。

夜からの営業はAさんも
バーテンダーのHさんも、
この時に知り合って長い付き合いに
なる当時高校生のYもバイトに来てくれた。

僕たちは何度も味見をして、
低いクオリティながらどうにか
商品になる様に努力をした。

Aさんは昼間の出来ごとは
何もなかったように
元気だった。
特別仕事は何もしないが、
「いらっしゃいませ!」
といった声だけは出してくれた。
夜もお客様は途切れず、
僕たちは用意したスープを
全部売り切った。

親友のモトイも来てくれて、

「まぁ味はともかく、大変やったな」

とねぎらってくれた。

閉店し、お客様のいなくなった
店内でAさんは芝居がかった
元気な大声を出して、
「すげぇよ!
お前たちプロだよ!
侮ってたよ!
大祐、思う存分やれよ!」

等といきなり景気のいい事を
言い出した。

恐らく次々とやってくる
お客様の姿に気を良くしたのだろう。
単純だが、こうした芝居じみた
発破の掛け方はAさんの真骨頂と
言って良かった。

相変わらずMは不機嫌だったが、
僕はもうやるしかないと腹を決めた。

しかし事はそう簡単には進まない。

恐らくMにとっては人生の中でも
一番不愉快な苦悩を抱える
時期だったのではないだろうか?

僕は自分の無力さを思い知る事になる。

次回に続く。