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金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第28回

人は誠実に生きたいと願う。

~奴もやっと思い知ったであろう、
その手でひそかに葬った人々の血が、
わが身に硬くこびりついて落ちないのを。
刻々に起る反乱の火の手が、
その不義不忠を責め立てる、
己の率いる軍兵どもも、
ただ命令で動くだけのこと、
心のつながりなど、
まったく無い、
王とは名ばかり、
それもいつ自分の肩からずり落ちる事か、
巨人の衣装を盗んで着用に
およんだ小人のみじめさ、
今となってはひとごとではあるまい。~
シェイクスピア~『マクベス』より。

誠実さを失い、嘘で着飾った王様は、
いつか嘘を暴かれるのだと古典は
すでに教えてくれていた。

だが、人間は何百年も前の教訓から
もうしまいと誓った失敗を、
何度も繰り返すのだろうか。

 

 

先に読んでる皆さんに一つ断りを
入れておきたいのだが、
これからの内容は
出てくる人たちの事を
辛辣に批判する様な表現を
してしまう場面が増える。

そこで解って欲しいのは、
僕がこのブログで伝えたい事は、
決して誰かを批判する事が
僕自身の正当性を証明する
為だけにあるのではないという事だ。

僕自身が、弱く、小さく、決断も出来ず、
展望や目標も持てず、
流される様に激流に抗う力も持てず、
失敗を重ねて来たという事だ。

今まで書いてきた
過去を振り返る物語よりも
幾分か生々しい表現が増えると思う。

はっきりと言っておきたいのは、
これから書きつづる僕の身に
起る出来事は
全て自分が引き寄せたのだ。

ここから文章の書き方に神経と
注意力とが必要になってくる。

その都度この様な話の本流から
逸脱する様な説明が入る個所が
増えて読みにくくなる可能性があるが、
なるべく誠実に丁寧に
書いていく予定なので、
どうかよろしくお願いいたします。

 

 

店にほとんど来なくなったAさんは
一体その間何をしていたのだろうか?

Hさんをはじめ僕たちスタッフは
給料も満足に貰えず食事も
ギリギリの状態だった。

僕はAさんの「居酒屋に集中しろ」
という命令から、日雇いにいけなくなった。
俄然暮らしは困窮した。

僕も他のみんなも、家賃と光熱費と
携帯代を払ったら、
一日でもバーにでも酒を飲みにいけば
残りの日数は水を飲んで暮らさなくては
いけないような収入だった。

近所にお世話になっていた鮨屋があった。
その店で働いていた友人がいつも
あまった酢飯とガリを持って来てくれた。

僕たちはその酢飯にガリを乗せて
醤油だけ掛けて空腹をしのいでいた。
居酒屋の食材は簡単には遣わさせて
もらえなかったのだ。

ある日夕方に
居酒屋に自分が一番に出勤すると、
前日に貰った酢飯が減っていた。
Hさんがあまりに食べるものが
なくてわざわざ酢飯だけ食べに
昼に店に来ていたのだ。

このエピソードは、
今では僕とHさんにとっては
酒の席の笑い話になっている。
同じ時代を共に過ごすと、
他の人では埋まらない連帯感や
友情が生まれる。

最後に辻堂で二人きりで飲んだ時も
「大祐、20年後も同じ話題で笑い合おうな」
と言ってくれた。
僕はHさんに気付かれないように
涙を隠した。

僕もHさんも心が
ささくれだった時期もあった。
しかし全て終わってしまえば、
いつまでも僕たちを繋いでくれる
大切な思い出だ。

そう、僕たちはいつだって、
1人なんかじゃない。

話を当時に戻そう。
ある日、いつもの様に仕事が
朝の5時くらいに終わった。
当時町の海のすぐそばに、
朝の6時ごろから開いていた
パン屋件コーヒーショップがあった。

日頃仕事ばかりしていた僕と
Hさんは、常連の女性の友人を連れて
三人でコーヒーを飲みに行った。

そこで僕とHさんは日ごろは
我慢しているお酒を少しだけ飲もう、
と言い出して、結局お互いに
酔っ払うまで飲んだ。

その時にHさんが僕にこう切り出した。

「大祐、大変な状況の中を
頑張ってるのは解るんだけど、
もう少し居酒屋の仕事に
身を入れてくれないかな?」

「・・・・」

僕は何も返せなかった。
その沈黙の次に口を開いたのは、
同席していた女性だった。

「・・・大ちゃん、
居酒屋さんになっちゃうの?
私、ずっと気になってたんだ・・・。
居酒屋の大ちゃん、あんまり見たくないな。
ラーメン屋さん、やらないの?」

僕は、慎重に言葉を選ぼうとしたが、
口を開いたら言葉が止まらなかった。

「・・・Hさん、俺もう嫌なんです。
Aさんは毎日物件を探してるとか
金を工面してるとか言ってるけど、
正直何をしてるのか解らないし、
お客様からも色んなクレームも
来ててなんかお客様にも申し訳ないし<

俺もう辞めたいです。
もしこのまま何も進まず、
Aさんを僕らが食べさせる様な
仕事を続けるなら、俺、どっかの
らーめん屋で修業し直します・・・」

Hさんは深く目をつむり、
「・・・解った」
とだけ言った。
なぜHさんはあの時あれだけ
頑張れたのか、本当に不思議だった。
後で聞くと、バーテンダーとして
活躍してきた自分の勤める店が、
盛りあがらないのは許せない、
というプライドがあったそうだ。

もし店を盛り上げて次世代に
つなげる事が出来ていたら、
Hさんも辞めると言い出したのでは
ないだろうか?

結局その日は僕たちは昼過ぎまで飲んだ。
もちろん財布は空っぽだし、
夕方からの仕事はグダグダだった。

じゃぁ、僕はもう辞めよう・・・。

後はいつこの決心をAさんに伝えるか、
そんな時だった。

それから二日もしない間に
「大祐!物件あったから見に行くぞ!」
と突然Aさんがやってきた。

ここからが本当の嵐の様な
毎日の始まりだった。

次回に続く。