金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第24回

Aさんの居酒屋に入るといきなり
驚く事が待っていた。
それは以前までAさんの居酒屋で
一緒に飲んでいた飲み仲間のHさんが
居酒屋で働いていた事だった。

僕は東京で働いている間は
たまには居酒屋に顔をだしていたものの、
細かい事情までは全く知らなかった。

Hさんはとあるレストランバーで
バーテンダーを務めていた。
そのHさんが居酒屋で働いている
事はかなり意外だった。

Aさんの7坪ほどの居酒屋は急に
スタッフ溢れかえり、なんだか
活気に溢れていた。
しかしそもそも7坪の店なのだ。
料理人もいれば、バーテンダーもいれば、
オーナー店長もいるスタッフで
ギュウギュウの店はなんだか手狭で
見てて違和感があった。
そして料理もお酒も作れるスタッフが
いるのだから、オーナーのAさんは
明らかに仕事をしていなかった。

テーブルにどっかり座って
ふんぞり返って客との会話を楽しんだり、
スタッフに指示を出したりしていた。

以前までカウンターの中で仕事の手を
止めずにお客様との会話を盛り上げ、
器用に料理と接客とをこなしていた
Aさんに魅力を感じていた僕は、
そんなAさんに少し違和感を覚えた。

しかしAさんのお店はAさんの人柄や
会話の面白さに魅かれてくる方が大半
だったので、そうした営業方法も
ありなのかな?とそこまで深くは
自分の中の違和感を追求はしなかった。

そこで僕はAさんに修業先を退職した
事を報告した。
するとAさんは「え?」と心底驚いた
顔をして、無言になった。

僕はなぜそこで僕の様な一客が
仕事を辞めただけでいきなり無言に
なるのかがよく解らず、Aさんの
言葉を待った。

「・・・そっかぁ・・・
あのさ、これは本当は大祐には
言いたくなかったんだけど・・・」

と前置きをして、今思い出すとそれは
演技なのか本当に言う事をためらってるのか
解らない表情を浮かべ、眉間に眉を寄せて、
その意思の強そうな眼差しを足もとへ
落とし、腰に両手を当てて考えてる様な
仕草を見せた。

僕はなんの言葉が出てくるのかと
少し緊張を始める。

「・・・俺さ、ラーメン屋を
やろうと思うんだよね」

「え!?ほんまですか?」

「実はさ、常連の男の子に製麺所の
営業マンをしてる子がいて、彼に
いつも麺のサンプルを持ってきて
もらってるんだ。それでいつも試作
してるんだよ。らーめんについては
素人だけど、俺もずっと居酒屋やって
きて料理は解るし、料理人もいるし、
H君も入ったし、みんなでやれば
出来そうなんだよね」

「そうなんですか!?」

「うん、そこでさ、
この話を大祐にしたら、
大祐はラーメン屋で
しっかり働いてるから、
『らーめんなめんな!』
とか言われるんじゃないかな?
なんて考えちゃってさ。
なんだか言いだせなかったんだよ」

「・・・いや、そんな風には・・・」

僕は単純に驚いただけだった。
そこにHさんが重ねてこう言った。

「俺もさ、らーめんなんて作る事に
なるなんて思ってなかったけど、
やるからには頑張るよ!」

どうやら本気らしかった。

僕は何か釈然としない気持ちのまま
自分の部屋へと帰って行った。

なかなか寝付けない僕の心に
浮かんでくる感情は、最初は単純に

『やっぱすげぇなぁ。経営者はこうして
次から次へと広げていくんだな・・・』

というAさんへの素直な尊敬だった。

しかし次第に自分の中でそれとは違う
感情が浮かんできた。

『・・・羨ましいな』

僕は一日も早く自分の
らーめんを作りたかった。
それは
『自分がオーナーになりたい!』とか
『自分の店を持って稼ぎたい!』などの
目標を立てた強い意志ではなく、まるで
『早く学校終わんないかな!
ギター弾きたいな!』とか
『早く授業終わんないかな!
部活のラグビーが楽しみだな!』と言った
子供っぽい欲望に近かった。

僕はラーメン屋として働き始め、26歳という
そろそろ大人の男として人生のビジョンを
描けていなければいけない年齢になっても、
まだピーターパンのままだったのだ。

僕は単純にAさんが羨ましくて羨ましくて
仕方がなかった。

Aさんは居酒屋を長年やっている。
Aさんの店の料理人は元々は洋食屋出身だ。
そしてHさんはバーテンダーだ。
それぞれ違うジャンルだが飲食に
携わってきた人達の、それぞれ違う
バックボーンから出されるアイデア
詰め込んだらーめんはとても
魅力的に思えた。

きっと僕の様に家系でしか経験を
積んでいない男にはないアイデア
出しあうのだろう。
そしてそのらーめん以外から出てくる
イデアを掛け合わせて化学反応を
起こしたらーめんは、きっと誰も
想像も出来なかった新しい物に
なるのだろう・・・。

そしてあのAさんのバイタリティなら、
僕の妄想など軽く
超えていくのだろう・・・。

その思いは、なぜか僕の劣等感に直撃した。
僕は何も出来ない!
それに比べて僕は何の力もない!
僕には斬新なアイデアを出せる
経験もない!

そこでその思いを
『今に見てろ!
修業を積んで僕もいつかは!』
と目標を立てて、新しい店で
修業を始める様な根性が
僕に備わっていれば、今頃は
自己破産の様な失敗はしていなかった
かも知れない。

しかし当時の僕の取った行動は、
Aさんへの嫉妬と自分への情けなさに
苛まれて、引きこもって部屋で酒を
飲んでいただけだったのだ。

以下、次回に続く。