ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第17回

六本木店が軌道に乗らなかった理由は
数多くある。
その内容についてはここでは書くべきでは
ないと前回のブログで説明をした。
簡単にいうと、K県でのやり方を
東京できちんと継承出来なかったのだ。
僕たち現場の人間は与えられた環境で
必死に戦った。
やれるベストの事を尽くそうとした。
しかしその戦うステージである店舗が
K県の店舗に比べて整っていなかったのだ。

その六本木での店舗の立ち上げを
一身に背負って請け負って来たのが、
統括責任者のNさんだった。
そのNさんが六本木の店長だった。

Nさんは必死だった。

Nさんは僕たちには解らないプレッシャーと
戦いながら必死に頑張っていたと思う。
思いつく限りの手を打とうとするのだが、
とにかく結果が出ない。
僕たち現場のスタッフ達はNさんの頑張りを
見ているから、今は耐えながらNさんに
ついていきながらみんなで頑張ろうと
考えていた。
時にはNさん以下の人間だけで集まって
みんなで戦って結果を出そうと話し合ったり
したりもした。

しかし会社は待ってはくれない。
結果の見えない頑張りは、それは頑張って
ない事に等しいのだ。

会社は突然の人事を発表した。

会社内の肩書はNさんよりも上だが、
らーめんに関しては全くの門外漢の
居酒屋の統括責任者をらーめん部門の
統括責任者に任命したのだ。

それから雲行きが怪しくなってきた。

明らかにNさんは立場がわるくなり、
みるみる元気がなくなっていった。
そうとう社長にも責任を問われた様子だった。
それに重ねて、社長が
「味に関してはWさん
(前々回のブログに登場した僕の直属の上司)
と南君の指示に従うこと」
というお達しを出したのだった。

僕個人としては自分の実力が認められた
様な気持ちにもなったが、
明らかに居場所を失いつつあった
Nさんに対しての気まずさもあった。
しかしそこは仕事だ。
やるからにはベストを
尽くさなくてはいけない。

僕は出来る限りの事をするしかないと
気持ちを作って仕事に臨んでいた。
そんな厳しい日々の中、
どうしても忘れられないNさんの表情がある。

ある時、僕の作ったスープの味見を
Nさんに求めた時、僕の顔を一切見ずに

「・・・美味しいです・・・」

とだけ呟いた。

Nさんは本来、
親分肌で天性のリーダーだった。
言葉に力があり、
夢や理想を若いスタッフに語り、
みんなをその気にさせて
盛り上げるのが本当に上手だった。

時にはスタッフを引き連れて
朝まで飲み歩き、共に肩を組んで
まるで兄弟の様に振る舞い、
若いスタッフに店への帰属意識
芽生えさせる事が本当に上手だった。
一言でいえば、人間味に溢れた人だった。

僕の直属の上司のWさんは
どちらかというと職人肌で無口だった。
あまりの厳しさにスタッフからは
あまり好かれてはいなかったが、
失敗ややんちゃはしながらも
仕事は頑張ってた僕の事を
弟の様に可愛がってくれた。
僕はWさんの下で働ける事が
嬉しかったし、僕のラーメン屋としての
基本はWさんが鍛えてくれた。

しかし、時々NさんとNさんの
直属の部下たちの明るくパワフルな
雰囲気に羨ましさも感じていたのだ。
ただ、残念な事に、らーめんの
完成度に関しては呆れるほど
無頓着だったのだ。

そんなNさんが僕のらーめんの
味見をした翌日、突然失踪した。

いきなり店に来なくなり、
音信不通になったのだ。
会社中が大騒ぎになり対応に追われた。
当時、Nさんは新たにに家を
購入したばかりだった。
Nさんの住む町の隣の町に住む僕は、
仕事明けの朝からその足で地元へ戻り、
家まで行くのだが、家の方も
どこへ行ったのか全く分からなくなった
とのことだった。

Nさんはそのまま消えてしまったのだ。

その後、会社とNさんとが連絡を取ったり、
または正式に辞表を出したりしたのかは
僕には解らない。

店長がいなくなっても
店を畳むわけにはいかない。

店長のいなくなった六本木店は
主任がそのまま店長についた。
しかし会社はその新しい店長には
あまり権限は与えず、居酒屋から来た
新しい統括店長に権限を与える。
急造のチームは一気に求心力を失った。
店は片翼飛行を続ける
飛行機の様な状態だった。
新しく東京で募集したスタッフ達は
そんな店の状況を見て、
店への帰属意識も忠誠心も
持ち得なかった。
六本木店はすでに暗礁に
乗り上げていたのだ。
しかし僕とWさんは銀座店の準備に
取り掛かる日にちが近付いていた。
ただでさえ新店舗の開店は大変だ。
銀座店を準備しながら六本木店の
問題を乗り越える力は僕にも
Wさんにもなかった。

六本木店を中途半端な形のまま、
銀座店の準備にかかる事になったのだ。

僕は

『銀座店に賭けるしかない!』

等と格好のいい言葉は吐いていた物の、
その銀座店で自分のメンタルの弱さに
直面する事になる。

以下、次号に続きます。