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金澤流麺物語

金澤流麺らーめん南の店長南大祐の独白ブログです。こちらは営業内容やらーめんそのものとは関係のない日常的な話や、店長の趣味格好などを書いていくブログです。

金澤流麺物語 第14回

僕の遊び癖は、職場の先輩やモトイも
あまり良い顔をしなかった。
僕は先輩にもモトイにも同じ時期に
同じ内容の苦言を呈される。

「目標がなさすぎる。
しっかりとした目標があれば
そこまで遊ばない。
現状に流されすぎだ。」

今思えば至極まっとうで
正しい意見であり、
僕の事を思ってくれての忠告だった。

しかし僕は
こうした事を言われる度に
苛立って反発した。

「俺は自分の意思で働いて、
自分の意思で遊んでいる!」

僕の夜遊びはどんどんエスカレートする。
飲みすぎて寝坊して仕事に
遅刻する事も増えてきた。

ある夜、大泥酔をして自分の職場へいき、
満席のお客様の見ている前で
床で大の字でひっくり返って眠り、
起きたと思ったら床で小便をする・・・
店を放り出されて働いている
ラーメン屋のあるの駅前を
ふらふらと歩いていると、
夜遊びで盛りあがっている同世代の
若者のグループをみつけた。
僕は一体何が気に入らなかったんだろう?
恐らく目があったとか、
何人の顔見て笑ってんねん?とか、
そういう下らないレベルの話だ。
僕はケンカを売るのだが、
しこたまに酔っ払っているから
足腰に力も入らず、
男三人にコテンパンにのされる。
どうやって家に帰ったのかは全く
思い出せないのだが、
当然の様に僕の顔面は腫れあがり
体のいたるところが痛い。
一応職場へいくのだが、
先輩にめちゃくちゃ怒られて
家に帰らされた。
(その先輩には禁酒を言い渡される。
しなかったが)

社会人として最低の話だが、
その頃になると自分を制御出来なくなってきていた。
(よく首にならなかったものだ・・・)

この酒癖の悪さはこの後もずっと尾を引く。

それでもなんとか仕事だけは頑張った。
そんな無責任で無頼な私生活の反面、
らーめんへの情熱と研究心は反比例して
ますます深まった。

休日は二軒も三軒も食べ歩いた。
しかしそれまでの食経験が乏しいため、
何を食べても『美味い』『不味い』
しか解らない。食べても食べても自分の
肥しにならないのだ。

僕は焦った。
激しく落ち込み、
もっと早く飲食業へ飛び込めばよかった!
なんて思いもしたが、
そんな事を言い出しても切りがない。

モトイは幼少の頃から
『コックになる』と
決めて進んでいるのだ。
僕は『食費を浮かすため』に
ラーメン屋になったのだ。

スタートが遅れすぎているし、
モトイとためを張ろうと
思う事自体がおこがましい。
とにかく自分の経験のなさを自分で
埋めなくてはいけない。

そこから独学で料理の勉強が始まる。
らーめん以外を学ぶ事で塩加減や
出汁の加減や味の深みを自分の物に
したかったのだ。

今でも忘れられない出来事がある。

今でもたまに作るのだが、
牛肉をブイヨンとギネスビールで
ゆっくりと煮込む
アイルランドの郷土料理
『ビーフインギネス』
を作ってみた日の事だ。

その料理はその日が初めて作ったのだが、
そもそもどこかで食べて来て
美味しかったから作ろう!
と思ったのではなく、
たまたま買った雑誌に
レシピが掲載されていて
『これなら簡単!作れそう!』
と思い立って作ったのだ。

しかし作ったはいいが、
それが自分で美味いのか不味いのかも
判らなかった。

なんだかよく解らない味・・・
でも俺、アイルランド料理なんて
食べたことないやん?
もしかしたらこれがアイルランド
味かもわからんやん?
とか前向きなんだか無頓着なんだか
解らない考えで、
もそもそと食欲のそそらない
その黒々とした

『ビーフインギネス』の様な物

を口へと運んでいた。

そこで僕は突然思い立って
当時一番仲の良かった女の子に電話をする。
「なぁなぁ、
シチュー作ってん。
食べにこーへん?」

女の子を呼び出すのにこれほど都合の
良い言葉はそうそうないだろう。

「え?大ちゃんが作ったの?
すごいじゃん!行く行く!」

その女の子はすっ飛んで来てくれた。

どうやらご近所の付き合いで
お見合いをさせられてたらしく、
逃げ出す口実がほしかったらしい。
「友達が大変な事になってるので!
すいません!」
等と言って抜け出してきたそうだ。
その子は僕の部屋に着くなり

「いや~大ちゃん、助かったわ~。
もう近所のお付き合いってやーねー。
その気ないっていってんのに、
おばさんが私も気があるみたいに
言っちゃってたみたいで~。
大変だったのよ~。
なに?シチュー作ったの?これ?
なんか真っ黒なんだけど!
でも食べる!
大ちゃん、料理なんてするのね!
見直したわ!」

と一気にまくし立ててスプーンを
一口口に運んだ・・・。

その子は味わってる風だった。
僕は緊張して感想を待っていた・・・。

「うん・・・」

「うん・・・?」

「・・・」

「・・・」

「不味い!!」

 

その後彼女はこの
『ビーフインギネス』
もどきの悪い点を散々と
述べてくれたのだが、
僕の耳にはショックのあまり
全く聞こえてはいなかった。
しかし僕の心にはふつふつと
怒りに似たやる気がせり上がってきた。
「絶対こいつに美味いっていわせてやる!」

人生には様々なきっかけがある。
なんかアホみたいな話だが、
僕がまじめに料理を勉強する
きっかけを作ってくれたのは
間違いなくこの子だった。

彼女は今は家庭を営んで幸せに暮らしてます。

あの頃のKちゃん、
君の未来の旦那さんが
僕じゃなくて本当に良かったね(しみじみ)

次回はそんな僕の修業時代に訪れた
転機についてです。
どうぞよろしくお願いします。