ラーライブ〜MSGフリープロジェクト〜

石川県を中心に北陸で無化調でらーめんを作っている有志によるアミーゴ達の活動をブログに書いていきます。よろしくお願いいたします。

金澤流麺物語 第8回

前回までのあらすじ。

親友モトイの顔を立てるために
何の予備知識もなく『壱八家』に
訪れた僕は食事を終えたその場で
「雇ってくれ」と頼んだ。

その続きです。

「え!?ちょ、
ちょっと待ってください!」

とそのスタッフは慌てて店の奥へと
走って行った。
しばらくするとそのスタッフが再び
僕も元へと帰ってきて

「店長が会うと言ってますので、
どうぞこちらへ」

とそのまま店の奥まで連れていかれた。
僕はネルシャツにジーンズという姿で、
おおよそ面接とはかけ離れたファッション
だったのだが、そもそもその服しか
持ってないのだから当時の僕にとって
一張羅といっても間違いではなかった。
スーツを着て面接に行かなきゃいけない
仕事なんて最初から考えてなかったのだ。

「いやぁ、びっくりしたよぅ。なに?
求人みたの?」

20代後半か30代前半に見える店長は、
よくあるラーメン屋の店長のイメージ

『頑固者』

にはほど遠い親しみやすい雰囲気だった。
すぐに面接してもらえるとも思ってもなく、
もっと頑固な職人さんがでてくるのかと
思っていた僕は若干拍子抜けした。

「はぁ、まぁ、最低バイトでもいいので」

と僕もやる気あるのかないのか解らない
態度だったと思う。
なぜなら焦って仕事を探すつもりもなく、
モトイへの体面上、仕事を探すふりが
必要だったからだ。

「別にどうぞ、落してください」

くらいの気持ちで面接を受けていた。

「なに?君、柔道部?」

といきなり意味の解らない質問が
飛んできた。

「・・・いえ、ラグビー部ですけど」

「あぁあぁ、なるほどね!いいよ!
月曜日から来なよ!履歴書は初日で
いいよ!昼の12時に出勤て事で!
じゃぁ、よろしく!」

「え?あ、はい、よろしくお願いします。」

え?なに?採用?うそでしょ?社員?
バイト?どっち?俺がラーメン屋??

よく解らないうちに面接は
終わってしまった。
仕事内容や勤務時間や休みの日数や、
そもそも僕はバイトなのか社員なのか
それすらも解らないまま採用が決まった。

なんの予備知識もなく店に押しかけた僕も
僕だが、そんなどこの馬の骨とも解らない
男を即採用する店長も店長だ。

何はともあれ、こうして僕が人生を
掛けようとまで思えるようになった
ラーメン屋としての人生が始まった。

僕はほんの少しの安堵と、ほんの少しの
組織に簡単に所属してしまう窮屈さと、
モトイに対しての宿題をやっと終えた
小学生の様な義務感とが入り混じった
気持ちでモトイの部屋に帰った。

「俺、仕事決まったわ。ラーメン屋。
来週から来いって。」

「お、おう。良かったやんけ」

そう言ったモトイが何を感じて何を
考えていたかは当時の僕には良く解って
いなかった。

僕はその後なんとか壱八家で仕事を
させてもらい、一年が過ぎた。
その頃には仕事も大分覚えて店からも
戦力として期待されていた。

辻堂に来て一年が経ったある日、
僕はこの一年なんとかやってこれたという
報告とお礼を兼ねてモトイを呼び出して
近所の居酒屋でお酒をご馳走する事にした。

「モトイ、ありがとうな。なんとか俺も
仕事も安定してきたわ。それもあの時に
モトイが俺に仕事早く探せ!って言って
くれたおかげやわ」

と素直にお礼を述べた。
するとモトイが少し表情を曇らせて
僕にこう切り出した。

「・・・いや、あの時な・・・これ、
ずっと言わんとこ思ってたんやけど・・
実はお前が辻堂来る直前にな、俺、
お前のおばちゃんから手紙貰っててんけ」

「え?何それ?」

「俺な、お前のおばちゃんとは一回くらい
しか会ったことなかってんけどな、あの
手紙読んだらな・・・なんちゅうか・・・
お前のおばちゃんの魂の叫びみたなもん
感じたんや!」

僕は辻堂に来る前の数年、社会的にも
かなり迷惑をかけ、警察沙汰や死んでも
おかしくない交通事故や、うつ病での
心療内通いなど、今となっては笑い話だが
親と友人を心配させるには十分なほどの
迷惑をかけていた。

その文面は僕は読んだ事はない。
だが、内容は大方予想はつく。

『大祐はモトイ君しか頼れません』

等と書いてあったのではないだろうか?
その手紙を読んで俺にガミガミ説教を
するでもなく、状況の説明を
求めるでもなく、少し突き放すように
僕自身の責任と行動で仕事と住みかを
探させようとしたモトイ。

僕は彼のその静かな静かな決意と責任と
行動と、友人としての僕に対しての
冷静かつこれ以上ない心の使い方を、
心から尊敬する。
僕がモトイの立場だったら、と考えたら
最初から母親からの手紙を示して
追求したかも知れない。

モトイは僕と僕の母親にとって、
どうする事が最適かを思慮を重ねて
このような接し方をしてくれたの
だろうと思う。

これから僕がどんな人生を歩むにしろ、
モトイがいなかったら今のらーめんを
愛して、辻堂を愛して、その愛する
らーめんと辻堂での経験を自分の糧として
これから歩もうとする僕の人生はない。

僕は本当についている。
本当にラッキーマンだ。
たくさんの友達と、出会いと、きっかけに
毎日毎日背中を押されて動かされていく。
自分の望む方へ望む方へと。

モトイもこうして改まって振り返られると
困るとは思うけど、辻堂での最初の
きっかけをくれたのは、間違いなく、
モトイ、お前や。

ありがとう。
ほんま、ありがとう。

心から。

次回がこのシリーズの最終回です。
今日も読んでくれてありがとうございます。
よろしくお願いします。